サード⇒ピッチャー
現地時間28日(日本時間29日)のジャイアンツ対ドジャース戦のダブルヘッダー第1試合が現地で大きな話題となった。
9点差をつけられたジャイアンツは、最終回のマウンドに三塁を守っていたパブロ・サンドバルを送ったからだ。サンドバルは、「カンフー・パンダ」の愛称を持ち、チームでも人気者の一人。180センチ、116キロという体形から投手としての起用は想像できなかったが、その投球は投手も顔負けの内容だった。
ストレートの最速は88マイル(約142キロ)を計時。切れのあるカーブで相手打者から空振りを奪うなど、打者3人をいずれも内野ゴロに打ち取った。投球フォームも野手のそれとは思えないほどだった。
この試合はダブルヘッダーの第1試合だったこと、大量リード奪われていたことなどが、サンドバルの投手起用につながった。メジャーでは6カ月間に162試合を戦い、ロースター枠も25人と少ない。また延長も無制限のため、年に数回は野手の登板を目にする。かつてイチローや青木宣親がマウンドに登った姿を覚えているファンも多いだろう。過密スケジュールのメジャーではやむを得ない面もある。
真剣勝負とエンターテインメント
一方で野手の投手起用に関しては、日本では否定的な意見も多い。「真剣勝負の場で専門外の野手を起用するのは試合放棄と同等だ」。「入場料を払っている観客に失礼だ」など。確かにたとえ9点差でもコールドがない試合では逆転する可能性はゼロではない。最後まで全力を尽くすべきという意見は理解できる。
しかしこの日、サンドバルが見せた投球に遊び心はなかったように見えた。結果的に失点し、傷口を広げていた可能性も否めないが、序盤から苦しい展開だったこの試合で地元ジャイアンツファンの盛り上がりは最高潮に達していた。プロ野球は勝つための真剣勝負という側面もあるが、ファンを喜ばせるエンターテインメントの側面も当然ある。入場料を払ったファンは、サンドバルの投球を見ることができて、逆に満足できた可能性も否定できない。
ちなみに日本では、2000年にオリックスの五十嵐章人が1イニングを投げ、無失点で切り抜けている。当時の仰木彬監督の計らいによって登板した五十嵐は、プロ野球史上2人目の全ポジションでの出場を果たしたユーティリティープレーヤーだった。これ以降、日本で野手の登板は一度もない。なお、五十嵐は通算26本塁打ながら全打順での本塁打も記録している。
元来プロ野球で活躍するような選手たちは高い身体能力を有していることが多い。今後は“打てる投手”が代打で起用されたり、“投げられる野手”がマウンドに登ったりする“二刀流”時代が到来する可能性もあるだろう。むしろ、そういう選手が脚光を浴びる時代になるかもしれない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)