白球つれづれ2018~第14回・交流戦の魅力
やはり交流戦は面白い。先週末にメットライフドームで行われた西武対阪神戦。戦いの前からセ・パの激突ならではの光景を目にする。
西武の森友哉と阪神の藤浪晋太郎、大阪桐蔭で甲子園を沸かせた黄金バッテリーが再会の握手なら、第2戦目には西武の多和田真三郎と阪神・小野泰己の富士大出身先発の投げ合いに同大出身の西武・山川穂高や外崎修汰との対決もあった。
そして京セラD大阪では、オリックスの山岡泰輔と巨人の田口麗斗が揃って先発。この2人と言えば、高校時代に夏の広島大会決勝で延長再試合という伝説の熱投を演じている。この時は山岡の瀬戸内高が田口の広島新庄に競り勝って甲子園行きを決めた。同僚に先輩後輩、さらには宿命のライバルと、日ごろではなかなかお目にかかれない人間模様を見られるのも交流戦である。
複雑な気持ちと…
西武の榎田大樹にとっても一生の思い出となる阪神戦となった。昨年までの古巣相手と言いたいところだが、正しくは今年の開幕前までは阪神の一員だった。突如のトレード通告は3月14日。菊池雄星に次ぐ左腕先発要員を探していた西武からアタック、岡本洋介との交換で新天地での再出発が決まった。
「正直なところ、複雑な気持ちだったですね。長年お世話になったチームへの愛着もあるし、新たにやってやるという気持ちにもなったし」
2010年のドラフト1位。ルーキーイヤーの活躍は目覚ましいものがあった。いきなりセットアッパーとして33ホールドをマーク。62試合登板は球団の新人最多記録でもあった。オールスターゲームにも選出されている。
しかし、この時の登板過多がたたったのだろう。その後は左肘の手術を受けるなど本来の投球からは程遠い苦しみの時期が続いた。復活を期すも近年は虎の指揮官・金本知憲の推し進める若返り策の前に二軍暮らしを余儀なくされた。
この榎田にはロッテも獲得へ向けた調査をしていたと言われる。プロ8年目、よもやのトレード通告が、くすぶっていた男に復活の舞台を用意した。
救世主現る!
今季8試合目の登板となった阪神戦。「意識しないようにしたが、かつての仲間が打席に立つと、やはり力が入ってしまった」と試合後に振り返ったが、それでも要所を締めて7回を3失点、味方打線の援護にも助けられて5勝目を記録した。阪神時代はプロ3年目の4勝が最多。今では立派な先発ローテーションの一員だ。
開幕からパリーグの首位を快走してきた西武だが、ここへ来てチーム状態は青息吐息、特に投手陣の失速が監督・辻発彦の悩みの種である。交流戦だけのチーム防御率は5.30とパリーグのワースト(4日現在)。昨年まで先発ローテの一角を担っていた野上亮磨の巨人移籍に加え、強力中継ぎ陣を形成していた牧田和久のメジャー・パドレス移籍とB・シュリッターの退団で、当初から懸念されていた中継ぎ陣の弱さが露呈しはじめた。日本ハム、ソフトバンクらのライバルがひたひたと足元に迫ってきている。それだけに新戦力である榎田の活躍は救世主現る、と言っても過言ではない。
「コントロールが良くて投球のリズムもいい。それにしてもここまで活躍してくれるとは、彼にとってもチームにとってもいいトレードだったんじゃないの」と投手コーチの西口文也も二重丸の評価。剛速球はなくてもカットボールやチェンジアップで打者を料理していく投球術は苦労人ならではの味がある。
苦労人たちのドラマ
一昔前まではトレードという言葉には、売り飛ばされるような負のイメージがつきまとった。しかし、球団間の情報量も増え、スカウティング網はよりち密になることによって、思わぬ掘り出し物を獲得することも珍しくない。選手たちの意識も前向きなものと変わっている。
交流戦でも日本ハムの太田泰示(前巨人)や、ヤクルト・坂口智隆(前オリックス)ら「移籍組」が目覚ましい働きを見せている。トレード上等!チーム生え抜きのエリートたちと対極をなす苦労人たちの新たなドラマも見どころ満載である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)