新たな時代の訪れ
「開演。“21世紀の球宴”」「2人のスーパールーキーが火をつけ、“先輩スター”の意地が爆発した!!」
19年前の夏に発売された『週刊ベースボール』のページをめくると、巻頭グラビアにはそんな見出しが躍っている。
平成11年、1999年7月24日〜26日に行われたオールスターゲーム。“2人のスーパールーキー”とは、当時プロ1年目の松坂大輔(西武)と上原浩治(巨人)のことで、“先輩スター”とは当時25歳のイチロー(オリックス)と松井秀喜(巨人)である。セ・パのベンチ入り60人の内、21人が初出場組と一気に球界の世代交代が進んでいた。
ちなみにノストラダムスの大予言で能天気に盛り上がった1999年7月には、浜崎あゆみが『Boys & Girls』を、鈴木あみが『BE TOGETHER』をリリース。だが、CDの売り上げは前年から大きく減少し、GLAYの20万人ライブが話題に。フジロック開催地が現在の苗場に移動したのもこの夏だ。ライブイベントやフェスで収益を上げる音楽ビジネスの変化の兆しは、この頃から見えていたのである。
先輩スターの意地
さて、ファン投票選出の松坂と上原の前半戦ハーラートップを走る両ルーキーが第1戦に先発。90年第2戦の野茂英雄(近鉄)vs.与田剛(中日)の投げ合い以来、2度目の新人先発対決は大きな注目を集め、テレビ視聴率はなんとサッカーW杯クラスの27.6%を記録した。
それでも、いざ試合が始まるとやはり主役は史上最多の134万票を集めた背番号51である。初回、全パの3番イチローが上原のフォークボールを捉えバックスクリーンへ飛び込む先制弾。5年連続首位打者中のイチローはベンチに戻り、松坂に笑顔で声をかける大人の余裕があった。
オールスター仕様の青いグラブでマウンドに上がった18歳の平成の怪物は、立ち上がりから150キロ超えを連発して二者連続三振のスタート。味方エラーもあり2失点を喫するが、3回を2安打5三振と上々の球宴デビューとなった。対する上原も3回3安打1失点の2三振にまとめ、勝利投手に輝いている。
試合を決めたのは全セの4番バッターを務める背番号55だ。6回表、篠原貴行(ダイエー)から97年から続く史上初の球宴4試合連続アーチとなる2ランをかっ飛ばし、見事第1戦のMVPを受賞する。表彰台には他に4安打のイチロー、上原、松坂、鈴木尚典らが顔を揃える豪華仕様で、NPBスター選手のメジャー移籍が活発化する直前に夢の祭典が実現した。
一塁コーチャーに立つのはお約束の長嶋監督。第2戦のMVPはこのシーズンだけで153打点を稼いだロバート・ローズ(横浜)、第3戦MVPはお祭り男の新庄剛志(阪神)らビッグネームが名を連ねている。90年代ラストとなった球宴は、全セがあっさり3連勝。全パは97年から引き分けを挟み5連敗となったが、逆指名ドラフトやFA制度でセ・リーグに有力選手が集まっていた最後の時代とも言えるだろう。
19年の時を経て…平成最後のオールスター
なお同年のフレッシュオールスターでは、松坂世代最強打者と称された横浜のドラ1スラッガー古木克明が決勝二塁打を放ちMVPを獲得。誇らしげに賞金100万円のパネルを掲げる古木の横で、優秀選手賞を獲得した広島の背番号25の姿も確認できる。まだ無名の大卒ドラフト6位ルーキー新井貴浩である。
誰が勝って、誰が負けたのか。先のことなんて誰にも分からない。古木は29歳の若さでNPBから姿を消し、新井は41歳の今も現役だ。
結局、99年のオールスター第1戦で先発した二人のルーキーの勢いは後半戦も続き、松坂は16勝、上原は20勝に到達して両者最多勝に輝く快挙。「リベンジ」と「雑草魂」でそれぞれ流行語大賞も受賞する。
そんな一時代を築いた二人が19年後の2018年夏、37歳と43歳のベテランとなり、オールスターファン投票で選出された。しかも、セ・リーグの先発投手と中継ぎ投手としてだ。
5年前、いや1年前でも、誰がこの未来の風景を想像できただろうか? 京セラドーム大阪で行われる第1戦の予告先発は、全セ松坂大輔、全パ菊池雄星。平成最後のオールスターで、中日のユニフォームを着た松坂は、古巣西武の現エースと対峙する。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)