シーズンは“2度”開幕する…?
「ミッドサマー・クラシック(真夏の祭典)」と呼ばれるMLBオールスターゲームが、現地時間7月17日にワシントンで開催されました。
ナ・リーグとア・リーグ、共に43勝43敗2分のがっぷり四つで迎えた89回目の球宴。選手達はいつもとは違うややリラックスした雰囲気でプレーそのものを楽しむ様子が窺えながらも、試合自体は白熱した展開に。打ち合いの末に延長戦へ突入するも、ア・リーグが10回表に昨年世界一に輝いたアストロズのアレックス・ブレグマンとジョージ・スプリンガーの連続ホームランで勝ち越し。8-6で勝利を収め、MVPはブレグマンが受賞しました。
そのオールスターが終わると始まるのが、今回取り上げる“2度目の開幕”、トレードのデッドライン(=期限日)。現地7月31日16時(※東部時間)までトレード市場が活発に動きます。実はデッドライン以降もトレードは8月31日まで可能ですが(昨年はジャスティン・バーランダーが8月末にタイガース→アストロズに移籍)、事実上このデッドラインをもってチーム毎の最終戦力が整い、ワールドシリーズに向けた闘いがより熾烈になっていきます。
ポストシーズン進出、そしてワールドシリーズ制覇を目指すチームが「バイヤー(買い手)」、優勝争いから脱落して来年以降に向けてチーム作りをするチームが「セラー(売り手)」となり、ギリギリまで激しい駆け引きが展開されます。ここ数年は特にその重要性が一段と増しており、ワールドシリーズまで進出したチームは必ず効果的な補強をしています。
以下、ワールドシリーズに進出したチームがデッドラインに獲得した選手です。
【ワールドシリーズ出場チームの主な補強】
<2015年>
▼ ロイヤルズ
ベン・ゾブリスト
ジョニー・クエト
▼ メッツ
ヨエニス・セスペデス
<2016年>
▼ カブス
アロルディス・チャップマン
▼ インディアンズ
アンドリュー・ミラー
<2017年>
▼ アストロズ
ジャスティン・バーランダー(※8月末)
▼ ドジャース
ダルビッシュ有
もちろん、即戦力選手を獲得するにはリスクも伴います。手早く即戦力を補強できる一方で年俸が高額であったり、FA間近で翌年以降は再契約が難しい選手が多く、かつ交換要員に要求されるのは「プロスペクト」と呼ばれる若手有望選手であることが多いため、即戦力選手を短期間保有するために将来性が豊かな選手を失ってしまいます。
2016年のカブスはチャップマンを獲得しましたが、その代償としてトップ・プロスペクトだったグレイバー・トーレスをヤンキースへ放出。彼は今季メジャーに昇格して大活躍しています。
チャップマンはFAとなった翌年にヤンキースと再契約。長い目で見れば「セラー」側のヤンキースの方が儲けたかに見えます。ですが、108年という長期に渡って優勝から見放されていたカブス首脳陣の「何が何でも世界一になる」という意志の現れは、選手たちや(ボクのような)ファンにとっても非常に意気に感じたことは間違いなく、実際世界一になれたのですから、両チームにとって“win-win”だったと言えるかと思います。
今年の動きは…?
さて、今年の主なトレードは以下の通りです。
【各チームの主な補強】
<ア・リーグ>
▼ レッドソックス
投:ネイサン・イオバルディ(右先発)
内:イアン・キンズラー(二塁手)
▼ ヤンキース
投:J.A.ハップ(左先発)
投:ザック・ブリットン(左救援)
投:ランス・リン(右救援)
▼ インディアンズ
投:ブラッド・ハンド(左救援)
投:アダム・シンバー(右救援)
外:レオニス・マーティン(中堅手)
▼ アストロズ
捕:マーティン・マルドナド
投:ライアン・プレスリー(右救援)
投:ロベルト・オスーナ(右救援)
▼ アスレティックス
投:ジェーリス・ファミリア(右救援)
▼ マリナーズ
投:アダム・ウォーレン(右救援)
投:ザック・デューク(左救援)
外:キャメロン・メイビン(中堅手)
<ナ・リーグ>
▼ フィリーズ
内:アズドゥルバル・カブレラ(二塁手)
捕:ウィルソン・ラモス
投:アーロン・ループ(左救援)
▼ ブレーブス
投:ジョニー・ベンタース(左救援)
投:ブラッド・ブラック(右救援)
外:アダム・デュバル(左翼手)
投:ケビン・ゴーズマン(右先発)
投:ダレン・オデイ(右救援)
▼ カブス
投:コール・ハメルズ(左先発)
投:ジェシー・チャベス(右救援)
投:ブランドン・キンツラー(右救援)
▼ ブリュワーズ
内:マイク・ムスタカス(三塁手)
投:ホアキム・ソリア(右救援)
内:ジョナサン・スコープ(二塁手)
▼ パイレーツ
投:クリス・アーチャー(右先発)
▼ ドジャース
内:マニー・マチャド(遊撃/三塁手)
内:ブランドン・ドージャー(二塁手)
投:ジョン・アックスフォード(右救援)
▼ ダイヤモンドバックス
内:エデュアルド・エスコバー(三塁/遊撃手)
投:マット・アンドリース(右救援)
投:ブラッド・ジーグラー(右救援)
投:ジェイク・ディークマン(左救援)
▼ ロッキーズ
投:オ・スンファン(右救援)
Welcome to Los Angeles, Manny Machado! #Dodgers pic.twitter.com/tPgopiPWv6
— Los Angeles Dodgers (@Dodgers) 2018年7月19日
今年の目玉と言われていたマニー・マチャドは、オールスター翌日という早々にドジャースへの移籍が決定。全体的に早めで、尚且つ例年以上に活発に動いた印象です。
7月の時点で既に借金を40以上も抱えていたオリオールズは、マチャドをはじめザック・ブリットンにダレン・オデイ、ブラッド・ブラック、そして7月最終週の週間MVPに輝いたジョナサン・スコープなどの主力選手達を次々と放出、再建モードへと完全にシフトしました。
同じくア・リーグ東地区のレイズ、ブルージェイズも同様に「セラー」として主力選手を放出し、プロスペクトを多く獲得した印象です。一方、プロスペクトを豊富に抱えるヤンキースは積極的に補強。と同時に、トレードで獲得した選手とポジションがダブる選手を他のチームに放出し、外国人若手選手をドラフト外で獲得するために必要な「インターナショナル・ボーナス・プール」をかき集める、という抜け目のない動きを見せています。
New teammate! 👍
— Boston Red Sox (@RedSox) 2018年7月31日
Welcome to Boston, Ian Kinsler! pic.twitter.com/f6goxvlMvU
ライバルのレッドソックスも、怪我で離脱しているダスティン・ペドロイアの穴を埋めるための二塁手としてイアン・キンズラーを獲得しました。各地区の首位を走るインディアンズ、アストロズ、カブス、また開幕から安定した成績で上位に位置するダイヤモンドバックスもポストシーズン以降を見据えしっかり補強しています。
またここ数年「セラー」としてチームを立て直し、今年は久し振りのポストシーズン進出を狙うアスレティックス、マリナーズ、フィリーズ、ブレーブス、ブリュワーズなどが「バイヤー」として積極的な動きを見せました。
ナ・リーグ東地区で首位争いを繰り広げるフィリーズとブレーブスは両チームとも、ここぞとばかりに大物選手を獲得しています。ナショナルズがこのタイミングでブライス・ハーパーをトレードに出しても構わない、との報道を出した(結局移籍は成立せず)=今シーズンはあきらめたと受け取れるので、ナ・リーグ東地区は今後、この2チームによる一騎打ちになるでしょう。
大谷翔平選手の所属するエンゼルスは、レギュラーのマーティン・マルドナド(捕手)とイアン・キンズラー(二塁)を放出したことにより「バイヤー」にまわり、残念ながら今シーズンはあきらめたと見て間違いないでしょう。
そして、今年のトレード市場で最大の大物先発投手と称されたクリス・アーチャー(レイズ)は、まさかのパイレーツが獲得。地区首位のカブスとは7ゲーム離れていますが、現在ワイルドカード争い圏内に位置するパイレーツは勝負に出た模様です。
今年のデッドライン・デーも終了。上位チームにはそれぞれ新たな戦力が加わり、7月31日のナイトゲームから新たな「開幕」を迎えたメジャーリーグ。効果的な補強をしたチームによる8月以降の追い上げ、そしてポストシーズン以降での補強選手の活躍を予想しながら、最終的に世界一に輝くのはどのチームになるのか…。今シーズンも残り3カ月、目一杯楽しみたいと思います!
文=オカモト“MOBY”タクヤ/SCOOBIE DO(おかもと・もびー・たくや/すくーびー・どぅ)