トリプルT
2016年に73試合に出場し、打率.342、13本塁打、ナ・リーグ5位の33盗塁を記録し、新人王争いでドジャースのコーリー・シーガーに続く2位の票を得たのが、ナショナルズのトレイ・ターナーだ。2017年は右手首の骨折でシーズン中盤に戦列を離れ、98試合の出場に限られながら、ナ・リーグ3位の46盗塁をマーク、打率も「.284」を記録した。
ニックネームは“トリプルT”。華々しいルーキーシーズンを送った2年前、66試合の間に8本の三塁打を放ったことを受け、チームメイトのジェイソン・ワースが名付けた。
今季も134試合を終えた時点でナ・リーグトップの33盗塁を記録する快足の持ち主だ。
ターナーは「盗塁を成功させるために必要なことは、投手が最初に何をするかを見出すこと。投げる時に少し体を揺らすとか、足をちょっと上げるとか、頭の位置はどうかとか、どんな動きでもいいから盗むんだ」と、そのコツについて明かしてくれた。
意外な目標?!
打って走れる選手としてナショナルズを支えるターナーは、フロリダ州という天候に恵まれた土地で生まれ育ったこともあり、野球を始めた4歳の頃から、ほぼ年中野球をやっていた。その時から走ることにかけては、「誰にも負けなかった」と胸を張る。足が速いことでつけられたあだ名は「ロードランナー(時速32キロ以上の速さで走るアメリカの野鳥・ミチバシリ)」や「ホワイト・ライトニング(白い稲妻)」など数知れない。
実際、高校に入ると、「自分より大きく力強い選手が出てきたことで、走りで敗れた屈辱も味わった」が、「高校で身体を鍛え、次第に走力を上げていった。そして大学に入るとさらにスピードを上げ、多くの盗塁を奪うようになった」と振り返り、生まれ持った才能だけでここまで来たわけではないことを強調した。
走ることに関しては誰からも認められ、そのために努力を惜しまなかったターナーだが、「個人に与えられるタイトルで手にしたいものは?」と問うと、「首位打者」という答えが返ってきた。そしてターナーは、その理由を次のように語る。
「盗塁王を取ることが簡単だとは思わないし、もちろん取ってみたい。でも盗塁を量産できる選手というのは限られている。それに比べ、打撃は誰もがやっていること。どの選手も毎日勝負に勝つために打席に立ち、ヒットを打とうとしている」
なみに、今季133試合を消化した時点での打率は.267(53打点、15本塁打)で首位打者には遠い位置にいるが、「首位打者(のタイトル)を獲れたらかなり感動するだろうね」と心を躍らせていた。
トレード規則を変えた出来事
ターナーは2014年6月のアマチュアドラフトで、パドレスから1巡目(全体では13位)の指名を受けた。ドラフトの数日後にはパドレスと契約し、ショートシーズン(※)で23試合に出場したあとクラスA(※)に昇格し、46試合の出場で打率.369、出塁率.447、長打率.529をマーク。その後プレーしたアリゾナ・フォールリーグ(教育リーグ)では9試合で打率.400、出塁率.41 7、長打率.400と、4割以上を並べた(7盗塁も記録)。
※ MLBの階層
・メジャー
・トリプルA(3A)
・ダブルA (2A)
・アドバンスドA(A+)
・クラスA (A)
・ショートシーズンA(A-)
・アドバンスド・ルーキー(Rk)
・ルーキー(Rk)
しかし、同年12月に3チームが絡んだトレードでナショナルズへ移籍。何が不幸だったかと言うと、当時メジャーリーグでは、ドラフトされてから1年以内のトレード移籍が許されていなかったため、ターナーは翌年6月にナショナルズに移籍すると知りながら、パドレス傘下でプレーを続けなければならなかったことだ(この件を機にMLBはアマチュアドラフト指名選手に関するトレードの規則を変更した)。
だが、そんな日々も決して悪い思い出ではなかったという。「(ナショナルズに正式に移籍するまでの)半年間は、変わった経験だった。でもパドレスにはいい仲間がたくさんいて、友情を深めることができた。僕がいずれ、同じナ・リーグのチームに移籍するとわかっていても、みんな僕が成功できるよう助けてくれたんだ。コーチたちも、もはや自チームの有望でも何でもない選手だった僕に変わらず接し、成長を見守ってくれた。振り返ってみると本当にいい半年間だった」と懐かしむ。
4年越しのペトコパーク
そのターナーが、ナショナルズ移籍後、始めてペトコパークでプレーしたのが2018年の5月7日。メジャーデビューを果たした2015年から4年目にして実現した「古巣」での試合だ。
パドレスのユニフォームを着て出場することは叶わなかった球場での一戦に興奮し「最初は地に足がついていない感じだった」という。しかし、最初の打席でソロ本塁打を放ち、ナョナルズに先制点をもたらすなど、同試合で3度ホームを踏み、チームの勝利に貢献。試合後は、「トレードは僕の意志ではなかったから後悔はない。ただ、その結果が自分にとって良いものとなるようにと思っていたし、そうすることができたと思う。それに試合に勝った。それがすべてだよ」と笑顔を見せた。
パドレスと対戦するたびに、ドラフト指名され、将来を期待され、自らも希望に満ちていた日々を思い出していたという。
しかし、ペトコパークでの初めての打席で先制ソロを放ち、チームを勝利に導いたことで、「ナショナルズのトレイ・ターナー」という、自らの居場所を確認した。
「今、ここ(ナショナルズ)でプレーできることを幸せに思っている」。そう語る25歳の若きスターは、無限の将来に目を輝かせていた。
文=山脇明子(やまわき・あきこ)