白球つれづれ2018~第27回・替えの利かない便利屋
セ・リーグでは広島Ⅴのカウントダウンが始まった。一方でパ・リーグはソフトバンクの急追で風雲急である。一時は最大11.5ゲーム差あった首位・西武とは9月3日現在、「4」差。この間、西武との直接対決の3タテを含め9連勝、1敗した後も目下のところ4連勝中と勢いは止まらない。
そんな、追われる身の西武に更なる衝撃が走ったのは、2日のオリックス戦直前のことだった。試合前の打撃練習中に外崎修汰が背中の張りを訴えてスタメン落ち。大阪市内の病院で診察を受けた結果、「軽度の腹斜筋の張り」と診断された。
この外崎、ヒーローとして新聞の見出しになる回数では菊池雄星、山川穂高や浅村栄斗らに比べると少ないが、攻守走にわたって今やチームに欠かせない存在。すっかり定着した5、6番の座からいなくなると一大事。幸い4日からの北海道遠征(日本ハム戦)には同行しており、長期の戦列離脱はなさそうだが、その動向はペナントの行方にまで影響を与えると言っても過言ではない。25歳の売り出し中の若武者はそれだけの存在になった。
「替えの利かない選手だね。足があって、肩が良くて、パワーもあるうえに内外野どこでも使える」。指揮官の辻発彦が手放しで目を細める。辻政権が発足した昨年から起用に応えてブレイク、ルーキーとして新人王に輝いた源田壮亮と共に「辻チルドレン」の代表格だ。
内外野の二刀流
一昨年までは一軍と二軍を行ったり来たりの平凡な内野手だった。そこに堅守を誇る源田の入団で遊撃のポジションから弾かれた。本人の危機感もさることながら、首脳陣の下した決断も見事だった。俊足強肩に加えてパンチ力のある打撃も捨てがたい。働きの場を外野に用意すると期待以上の成績を残していく。
打率.291は打撃10傑の6位、18本塁打67打点はもちろん自己のキャリアハイ。しかも24盗塁と塁に出れば脅威は増す。中堅・秋山翔吾と組む右中間の守備範囲の広さは12球団でも屈指の鉄壁の守りだ。さらに、三塁の中村剛也が不振の時には代わりも利く。これほど使い勝手のいい二刀流?もなかなかいない。
昨年は日本代表にも招集されている。国際ゲームではベンチ入り人数の制限もあり、内外野を守れるユーティリティープレーヤーは重宝される。侍ジャパンの監督・稲葉篤紀もその辺りを評価して「第1回アジアプロ野球チャンピオンシップ」に抜擢すると見事にMVPを獲得した。この秋の日米野球以降も稲葉の熱視線は外崎に注がれるはずだ。
「まだ、この時期に無理をさせることはない」と辻はペナントレース全体を見ながら外崎の起用を決めていく方針だ。長い戦いの中で予期せぬアクシデントや故障はつきもの。こうしたピンチをはね返したものだけが勝者の称号を得る。
逃げ切りVのキーマン
残り試合が「26」の西武に対してソフトバンクは「29」。星勘定をしてみると、西武が残り試合を5割で消化した場合、ソフトバンクが上に行くには19勝10敗が必要。西武が残りを15勝11敗の成績なら勝率は.5886。ソフトバンクの逆転条件は21勝8敗で勝率は.5915となる。西武を5差で追う3位の日本ハムはさらに厳しい勝率が要求される。
日程上は9月下旬に西武の本拠地・メットライフドームで予定されるソフトバンクとの直接対決が最後の天王山となるか?
大一番では西武の山川やソフトバンクの柳田悠岐といった4番はマークがきつくなり、むしろその前後を打つ打者の働きが勝敗を分けるケースは多い。さて、曲者・外崎の復帰がいつになるのか?故障の度合いは?逃げ切りVのキーマンに、この男をあげてもいいだろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)