苦しんだ前半戦
試合開始15分前、スタジアムDJのアナウンスと共に、ハマスタの右翼席に陣取るベイスターズの応援団が、スターティングラインナップに名を連ねた各バッターのテーマを球場に響きわたらせる。
5月26日のヤクルト戦、「柴田竜拓」の名前と共に、今年に入ってから作られた彼の応援歌が聞こえてきた。開幕から約2カ月、できたばかりの応援歌を試合前に耳にしたのは2回だけ。そのメロディが「久々だな」と感じるほど、柴田はスタメンからは遠ざかっていた。
努力というかけらの結晶
それでも、「一生懸命やることはプロとして当たり前」と、決して腐らず“努力”を怠ることはなかった。
すると、不断の努力が実を結ぶ。少ない出場機会の中で結果を残し始めると、5月26日のヤクルト戦に「6番・二塁手」でスタメン出場。ここから交流戦にかけてスタメンの回数が徐々に増えていき、6月は12試合、7月は16試合、8月は14試合と、立場は大きく好転した。
しかし、柴田のスタンスは変わらない。「試合に出られているからと言って、やるべきことは変わらないです。変わったらブレブレですからね」と頬のエクボをへこませながら笑う。
フォア・ザ・チーム
プロ入り時に「ショートにはこだわりがある」と答えていたが、3年目を迎えた今、「こだわりはなくなった」という。それよりも「任された全てのポジションでレベルアップしたい」と、様々なポジションを守ることにも意欲的だ。
その守備力は非常に高く、大和と柴田で形成する“二遊間”は、今やチームのストロングポイント。グラブトスからのダブルプレーは、「さすがプロ」と感嘆させる華麗さがある。
課題の打撃も、8月は「.308」という高打率をマーク。小柄ながらパンチ力もあり、しっかりと振り抜くスタイルでクリーンヒットが多い傍ら、選球眼も良く、四球も選べる。自身も「追い込まれたら粘ってフォアボールをとったり、デッドボールを受けてでも塁に出る」ことを目標としている。
打順も2番、6番、7番、9番と様々だが、「2番であれば次のバッターのために球数を投げさせたり、9番であれば上位打線にうまく繋がるようなバッティングをしたい」と、パーソナル・スローガンの“チームのために、最低限のことをできるように”を体現している。
負けられない戦いの日々
残り試合も20試合をきり、シーズンも佳境。DeNAは3位の巨人まで「3.5」差の最下位と、依然として厳しい状況は続いているが、「期待には応えられていないけれど、少しでも良い順位でCSに出たい。大勢のファンの応援に応えたいです」と、柴田はただ前だけを見据えている。
「全ての面において努力する。自分自身成長したいので」
全ては、その言葉に集約されている。自分に厳しい男は、前半戦の苦しさを胸に秘め、最後まで目の前の一戦一戦を闘い抜く。今では大勢のファンが覚えているオリジナルテーマに乗って。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)