かき消された西武の反撃ムード
ソフトバンク・甲斐拓也の強肩がチームの2年連続日本シリーズ進出を大きくたぐり寄せた。西武が2点を返し1点差に迫った5回、二死から内野安打で出塁した秋山翔吾が二盗を試みると、甲斐はすかさず二塁へ送球。際どいタイミングではあったが、約10分に及ぶリプレー検証の末、当初の判定通りアウトとなった。
送球は若干高く浮き、微妙な判定となったが、甲斐が誇る強肩と異常なほどの送球タイムがピンチを救った。点を取っては取られるという先の読めない試合だったが、あの場面で甲斐が西武の追い上げムードを消したこともあり、ソフトバンクは最後まで主導権を相手に渡さず、僅差のゲームをものにした。
野球ファンであれば、甲斐の強肩は誰もが知るところ。今季の甲斐の盗塁阻止率は.447。12球団ナンバーワンの数字である。しかも2位は.385でソフトバンクの同僚・高谷裕亮だ。もちろん、盗塁阻止は投手の果たす役割も大きいが、盗塁阻止率の他にもソフトバンク捕手陣の強肩ぶりを示す数字がある。それは、西川遥輝(日本ハム)の盗塁失敗数だ。
今季、44盗塁で2年連続の盗塁王になった西川。高い盗塁成功率を誇ることでも知られており、今季のそれは「.936」という驚異的な数字だった。西川が盗塁を失敗したのはわずかに3回。そして、その3回はいずれもソフトバンク戦で記録したものである。高谷に1回、甲斐に2回、西川は盗塁を阻まれた。
12球団盗塁トップの西武がCS5試合で盗塁ゼロ
甲斐と西川はCSファーストステージでも名勝負を繰り広げた。3試合を通して西川は2盗塁を決めたが、失敗と牽制死がそれぞれ1回。互角の勝負だったと言っていいだろう。「名勝負」というと、どうしても大投手と大打者の勝負をイメージするが、今後も続く甲斐と西川の勝負は間違いなく長く語り継がれる名勝負となっていくにちがいない。
そして、個人記録では西川には及ばないが、源田壮亮、金子侑司、外崎修汰ら俊足選手がそろっているのが西武だ。今季の西武の攻撃力を支えたのは、長打力と機動力だった。チームの132盗塁はロッテの124盗塁を引き離し、12球団最多だった。
ところが、CSファイナルステージでは5試合で盗塁はゼロ。ビハインドの展開が多かったこともあるが、甲斐の強肩の前に、盗塁を試みることすらままならなかった。5試合44得点の攻撃力もさることながら、甲斐が西武の足を封じたことも、ソフトバンクの大きな勝因のひとつだと言えるだろう。シーズンを振り返ってみても、パの各球団から20盗塁以上を記録している西武の機動戦士たちが、ソフトバンク相手には「13」盗塁に終わっている。
そして、日本シリーズで相まみえるのはセ・リーグトップの95盗塁を記録した広島だ。勝利の行方はもちろん、それを左右する「広島の足 VS 甲斐の強肩」にも注目したい。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)