白球つれづれ2018~第34回・ドラフト会議
今週の25日、野球界の一大イベントであるドラフト会議が開かれる。今年の特徴は将来性豊かな高校生と即戦力の呼び声高い大学生投手の1位指名争い。中でも投手、内野手に外野までそつなくこなす根尾昂(大阪桐蔭)と夏の甲子園で話題を独占した吉田輝星(秋田・金足農)が果たしてどこの球団に行くのか?が最大の関心事となっている。
ところがこの人気コンビ、ここへ来て明暗がはっきり分かれているのが気になるところ。あくまで先週末時点と断っておくが、根尾の人気は増すばかりで昨年の清宮幸太郎(早実から日本ハム)並みの「狂想曲」が予想される。
いち早く1位指名を宣言したのは中日。地元・岐阜出身の根尾は親会社の中日新聞にとっても販路拡張のために絶対取っておきたいスター候補。そこに巨人、楽天、日本ハムらも競合覚悟で指名する構えでいる。さらにソフトバンクやヤクルト、阪神も今後の戦略次第では参戦もあり得る。投げては150キロ超のストレート。打っても夏の甲子園でアーチを量産。大谷翔平を思わせる二刀流は頭脳明晰に加えて練習の姿勢も常に高みを目指して一切の妥協がないという。実力、人気、将来性とすべてを兼ね備えているのだから各球団の評価が最上位もうなずける。
一方で、吉田輝星の1位指名を公言する球団はいまだ現れていない。夏の甲子園大会では881球の熱投で秋田県勢103年ぶりの準優勝でスター性は申し分ない。あるテレビ番組に出演した元横浜高監督・渡辺元智は愛弟子の松坂大輔と比較してこう語っている。
「腕の振りが鋭いのは共通しているところ。フィールディングも素晴らしい。闘争心という部分では松坂より上かも知れない」
これほどの逸材ならすでに2~3球団のラブコールがあってもおかしくない。ところが好きな球団と語った巨人も、地元東北の楽天もつれないのはなぜなのか?
豊作ゆえの悩みどころ
今年のドラフトの特徴はいくつかある。まず、大学生投手に即戦力の逸材がいる事。東洋大の上茶谷大河、甲斐野央、梅津晃大の150キロトリオに、日体大の松本航らの評価は高い。特に松本は首都大学リーグで「30勝300奪三振」の金字塔を打ちたてて菅野(東海大から巨人)二世の声まである。パ・リーグ優勝こそ果たしたもののエース・菊池雄星のメジャー流出が確実視される西武や、ラミレス監督のもと来季こそ覇権を狙うDeNAなどは、こちらに重点を置くだろう。
次に近い将来のレギュラーも間違いなし、とされる優秀な高校生野手に先行投資する球団の動きも見逃せない。ある在京球団の編成担当は「投手に比べて野手で10年にひとりクラスの逸材はなかなかいない。そういう選手が出てきたら迷わずに獲りに行くべき」と語る。そこで浮上するのが走攻守三拍子揃った藤原恭大(大阪桐蔭)と小園海斗(報徳学園)だ。藤原にはロッテやヤクルト、小園には広島やオリックスが熱視線を送る。
こうしてみると吉田の場合は各球団ともに好素材とスター性は認めつつもチーム事情や補強ポイントの優先度などで「いの一番」となっていないのが現状だ。
しかし、ドラフト会議の駆け引きはこれからが本番。全球団が25日を前に他球団の動向はもとより2年3年先のチームの青写真をもとに戦略をギリギリまで煮詰めていく。近年はドラフト当日の会議直前で指名変更も珍しくない。逆に直前で違う選手の1位指名をマスコミに流してかく乱することだってある。
さて、この数日で吉田の評価はどう変わっていくのか?それとも、現状のまま「外れ1位」の指名となるのか?やはりこの男がドラフトの主役であることは間違いない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)