「活躍する」と見込まれた証
10月25日、プロ野球界の一大イベントと言えるドラフト会議が行われた。
今年は甲子園春夏連覇を成し遂げた大阪桐蔭の主軸である根尾昂・藤原恭大に、秋田県勢として103年ぶりの甲子園決勝進出を果たした金足農業のエース・吉田輝星らの高校生に逸材が多く、例年以上にファンからの注目を集めた。
そのドラフト会議の醍醐味と言えるのが、重複指名によるクジ引きである。今年も意中の選手を引き当てた各チームの監督は、いずれも派手なガッツポーズを見せ、会場を大いに沸かせていた。
ドラフト候補生たちの進路でお祭り騒ぎになるドラフト会議だが、大事なのはそのあとである。競合指名でせっかく当たりクジを引いて入団しても、成績がともなわなければ意味がない。むしろ、2010年のドラフト会議でヤクルトに指名された山田哲人のように競合に敗れたチームの外れ1位の選手が活躍することも珍しくない。
しかし、競合球団がいるということはそれだけ「活躍する」と見込んだ関係者が多いことを示すバロメーターともなる。そこで今回は、競合球団の数と選手たちの成績について調べてみた
競合数「4球団」が大成功の線引きに?
検証したのは、現行制度になった2008年から2017年までの10年間のドラフト会議において、1巡目指名で複数の球団が指名した選手の通算成績。現役選手の通算成績は、2018年のシーズン終了までのものとする。
※カッコ内の球団名は指名当時のもの。外れ1位での競合指名は除く
【近年のドラ1競合選手】
<2008年>
松本啓二朗(早大→横浜) ☆2球団競合=横・神
[通算] 302試 率.235(506-119) 本7 点45
大田泰示(東海大相模→巨人) ☆2球団競合=ソ・巨
[通算] 447試 率.253(1246-315) 本38 点145
野本 圭(日本通運→中日) ☆2球団競合=楽・中
通算成績:449試合 打率.224(827-185)9本塁打 83打点 1盗塁
<2009年>
菊池雄星(花巻東→西武) ☆6球団競合=西・神・ヤ・楽・中・日
[通算] 158試 73勝46敗1セーブ 奪三903 防2.77
<2010年>
大石達也(早大→西武) ☆6球団競合=横・楽・広・オ・神・西
[通算] 130試 5勝6敗8セーブ・12ホールド 奪三振131 防3.44
斎藤佑樹(早大→日本ハム) ☆4球団競合=ヤ・日・ロ・ソ
[通算] 77試 15勝24敗 奪三197 防4.32
<2011年>
藤岡貴裕(東洋大→ロッテ) ☆3球団競合=ロ・横・楽
[通算] 164試 21勝32敗 奪三351 防4.09
高橋周平(東海大甲府→中日) ☆3球団競合=オ・ヤ・中
[通算] 463試 率.241(1383-333) 本34 点170
菅野智之(東海大→日本ハム) ☆2球団競合=巨・日
[通算] 154試合登板 76勝41敗 防御率2.17 963奪三振
<2012年>
東浜 巨(亜大→ソフトバンク) ☆3球団競合=De・ソ・西
[通算] 82試 38勝21敗 奪三400 防3.10
藤浪晋太郎(大阪桐蔭→阪神) ☆4球団競合=オ・神・ロ・ヤ
[通算] 127試 50勝40敗 奪三806 防3.26
森 雄大(東福岡→楽天) ☆2球団競合=広・楽
[通算] 28試 3勝6敗 奪三65 防4.58
<2013年>
松井裕樹(桐光学園→楽天) ☆5球団競合=日・De・ソ・中・楽
[通算] 253試 16勝25敗101セーブ・41ホールド 奪三457 防2.75
大瀬良大地(九州共立大→広島) ☆3球団競合=ヤ・広・神
[通算] 145試 41勝26敗2セーブ・24ホールド 奪三505 防3.34
石川 歩(東京ガス→ロッテ) ☆2球団競合=ロ・巨
[通算] 112試 48勝44敗 奪三491 防3.42 491奪三振
<2014年>
安楽智大(済美→楽天) ☆2球団競合=ヤ・楽
[通算] 28試 5勝12敗 奪三107 防3.86
有原航平(早大→日本ハム) ☆4球団競合=De・広・日・神
[通算] 85試 37勝33敗2セーブ・1ホールド 奪三359 防4.19
<2015年>
平沢大河(仙台育英→楽天) ☆2球団競合=楽・ロ
[通算] 185試 率.197(457-90) 本6 点38
高橋純平(県岐阜商→ソフトバンク) ☆3球団競合=中・日・ソ
[通算] 1試 0勝0敗 奪三5 防12.00
高山 俊(明大→阪神) ☆2球団競合=神・ヤ
[通算] 282試 率.253(950-240) 本15 点103
<2016年>
柳 裕也(明大→中日) ☆2球団=中・De
[通算] 21試 3勝9敗 奪三87 防4.86
田中正義(創価大→ソフトバンク) ☆5球団=ロ・ソ・巨・日・広
[通算] 10試 0勝1敗 奪三15 防8.56
<2017年>
清宮幸太郎(早実→日本ハム) ☆7球団競合=ロ・ヤ・日・巨・楽・神・ソ
[通算] 53試 率.200(160-32) 本7 点18
中村奨成(広陵→広島) ☆2球団競合=中・広
[通算] 一軍出場なし
田嶋大樹(JR東日本→オリックス) ☆2球団競合=オ・西
[通算] 12試 6勝3敗 奪三69 防4.06
こう見ると、日本ハムへの入団を拒否した菅野智之を含め、25人中8人は後にタイトルホルダーとなるなど、球界を代表する選手がズラリ。
一方、5球団以上の指名を受けたその年の目玉中の目玉と言える選手のタイトル獲得は、菊池雄星のみという結果に。それ以外は、2016年に5球団の指名を受けた田中正義をはじめ、芳しい成績を残しているとは言えないのが現状だ。
だが、選手の経歴でわけると傾向にちがいが見られる。12球団の3分の1にあたる4球団以上の競合指名をひとつの指針として見ると、大学・社会人出身の選手で活躍している選手は3球団以下の指名にとどまっているケースが多く、反対に高卒で入った選手は4球団以上の競合指名を受けたほうが大成しているようだ。
実際、高卒選手で該当している菊池、藤浪晋太郎、松井裕樹はチームの主力として活躍。高卒では最多タイとなる7球団から指名された清宮幸太郎はルーキーイヤーの今季、開幕二軍スタートと出脚こそ鈍かったが、8月の再昇格後は来季に期待を持たせる活躍を見せた。
一方で、3球団以下の競合指名となった高卒選手は二軍でくすぶっているか、大田泰示や高橋周平のように規定打席到達まで時間がかかった選手たち。平沢大河は今季3年目で112試合出場を果たしたが、打率.213とまだ本来の実力を発揮しているとは言い難い。
今年のドラフト会議を振り返ると、1巡目指名を受けた根尾昂、小園海斗はそれぞれ4球団が競合。藤原恭大はひとつ少ない3球団からの競合指名だった。
果たして、過去10年の傾向は続くのか、それとも流れは変わるのだろうか…。
文=福嶌弘(ふくしま・ひろし)