白球つれづれ2018~第40回・和製大砲の見据える未来
広島の丸佳浩が巨人へのFA移籍を明らかにした先月30日、球界にもう1つのビッグニュースが駆け巡った。横浜DeNAの筒香嘉智が球団側に近い将来のメジャーリーグ移籍の希望を伝えたのだ。最短なら来オフにもメジャー行きの可能性があるという。今や、稲葉ジャパンでも4番を期待される和製大砲の夢は広がるばかりだ。
このオフ、筒香の周囲では注目される動きがあった。初の本格的な自著「空に向かってかっ飛ばせ!未来のアスリートたちへ」(文芸春秋社刊)の出版。それも少年たちへの励ましや自叙伝ではない。野球人口の減少は常々、危惧されているがその原因は何なのか?筒香は少子化だけでなく、日本球界に根強く残る「勝利至上主義」の弊害に言及している。パワハラまがいの指導。小さなミスも許さない。年365日のほとんどを長時間練習と試合に充てることによってケガや故障のリスクは高まるばかり。
「子供たちにとって本来楽しいはずの野球がそうでなくなっているのが気がかりです。指導者は勝つための技術や動きばかりを求めて、ミスをした選手に罵声を浴びせる。子供たちが自分たちで考えていろいろなことにチャレンジすることがなくなってしまう。成長するチャンスを奪ってしまっている。それが少年野球だけでなく高校野球も含めた日本球界の現実ではないでしょうか?(同著から要旨抜粋)」
現役の選手がここまで踏み込んで、球界全体に警鐘を鳴らすのは極めて珍しい。
メジャーへの思いと期待
横浜高の怪物としてプロ入り直後から将来のメジャー挑戦を口にしている。それが明確な目標となったのは2015年オフに参加したドミニカ共和国でのウィンターリーグだった。同国の子供たちのプレーも目に焼き付けた。打者はフルスイング、投手は快速球を投げることだけに集中している。野手はグラフトスやジャンピングスローも当たり前。何より野球を楽しんでいる。様々なミスも犯すが自分で考えながら覚えていく。指導者は必要な時だけアドバイスをする。そんな環境の中から将来のメジャーリーガーは生まれていくのだ。
自らの打撃も「メジャー流」に変えていった。現在のメジャー投手の主流は動くボールを駆使する事。打者の手元でストレートと思ったボールが微妙に変化して幻惑する。加えて海外の投手の投球フォームは日本に比べてワンテンポ速いので打者は差し込まれやすい。今秋の日米野球でも柳田悠岐が大きく上げていた脚をベタ脚にすることで好成績を残したのは記憶に新しい。筒香はすでにこれを数年前から実践している。すべては大リーグ仕様のためである。
メジャー帰りで今季からヤクルトに籍を置く青木宣親は筒香の将来に太鼓判を押す一人だ。
「何より左方向にも大きな打球が飛ばせるのは強みになる」
もともと、飛距離は日本でも屈指のスラッガーだがホームランの打球方向を見ても右だけでなく中、左と打ち分けている。エンゼルスの大谷翔平がキャンプの不振を脱却したのはベタ脚打法を取り入れてから。シーズン中にも中堅から左方向に打球を飛ばすことを心掛けてから数字を伸ばしている。筒香の場合はすでにこうした高等技術を身に着けているのだから頼もしい。これまでメジャーに挑戦した日本人野手は数多いが成功したと言えるのはイチローと松井秀喜くらい。多くはパワー不足を指摘されてきた。久しぶりに主力級の活躍が期待できるのが筒香だろう。
もっとも、これだけの至宝を球団側がおいそれと手放すとも思えない。事実、筒香の意思表明に際して球団社長の岡村信悟は「大切な選手だが、一方で本人の気持ちも大切、何が最適か考えていきたい」と微妙な表現に終始する。球団がポスティングシステムを容認すれば来オフにもメジャーリーガー・筒香は誕生するが海外FA権取得まで待てば最速でも22年シーズンからとなる。
高校時代からのライバルでもある西武の菊池雄星は一足早く、海を渡る。球団がポスティングを容認した背景には今年のリーグ優勝が決め手になったと言われる。それなら筒香も?プロ10年目、区切りの年は「横浜の筒香」として大勝負のシーズンでもある。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)