白球つれづれ2019~第7回・勝負の4年目
ちょっぴり忘れかけていた。走攻守三拍子そろった元高校球界の怪物を――。楽天・オコエ瑠偉のことだ。毎年、球界のキャンプでは金の卵の話題が賑わす。昨年なら清宮幸太郎(日本ハム)や安田尚憲(ロッテ)などが大きく取り上げられ、今年は根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)、小園海斗(広島)の高校生野手三羽烏に、吉田輝星(日本ハム)らの一挙手一投足に熱い視線が注がれる。だが、弱肉強食の世界、成績を残せなければ数年で忘れ去られるのもこの業界の厳しさだ。
4年前のドラフト、オコエは間違いなく東北楽天の星だった。関東一高時代は甲子園で大暴れ。高岡商戦では大会49年ぶりの1イニング2三塁打の快記録、準々決勝の興南戦では9回に決勝2ラン、走っては一塁強襲打で快足を飛ばし二塁打に、守っても鮮やかなダイビングキャッチでピンチを防ぐ。ナイジェリアと日本のハーフという話題性まで手伝って人気No.1の高校生として将来を嘱望された。
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だがこの男、ちょっとプロの世界を甘く見ていた節がある。初年度は木製バットの対応に苦しみながらも一軍で50試合以上に出場、次の飛躍に期待が集まった。ところが、勝負の2年目を前に当時の指揮官である梨田昌孝を激怒させる出来事が起こる。明らかにオフの不摂生と思われる太めの体でキャンプインすると、案の定、動きは悪く、右手指に故障を起こし強制的に戦列離脱を余儀なくされる。3年目の昨季も右大腿筋の損傷で出遅れて一軍レギュラーへの道は閉ざされた。
そんなオコエが今年は一味も二味も違うキャンプを送っている。まず、最初に首脳陣の目を惹きつけたのは2月6日に行われたランチ特打だ。元々、スイングスピードはチーム屈指のものがあったが、鋭い打球はピンポン玉のように飛んで120スイングで25本の柵越えを記録。さらにその後の紅白戦や他球団との練習試合も含め、3試合の実戦形式で2本のアーチをかけている。4年目の覚醒なのだろうか?
熾烈な外野手のレギュラー争い
昨年から打撃への意識改革を行ってきた。「これまでは7~8割が感覚で打っていた」ものが、メジャーで実践される「フライボール革命」に着目。野球の動作解析の専門家に師事して理論から見つめ直した。メジャーでは最も本塁打が出やすいのは打球速度が160キロ以上、打球角度は25度~30度とされ、この数字は安打の量産にも適している。この上でボールの半分から下を、正しく叩ければホームランの確立は間違いなく上がっていく。オコエ自身も「打ち方、意識を変えたら逆方向や中堅方向の伸び方が変わってきた」と手応えを口にする。オコエには、そろそろ覚醒しなければならない外的な要因もある。チームは新たにGMに就任した石井一久の下、オフには大改革に舵を切っている。昨季リーグ最下位の打撃部門に西武から浅村栄斗を獲得。一方で昨年までの外野陣から聖沢諒、枡田慎太郎や、クリーンアップも打っていたC・ペゲーロらを大量整理。ドラフト1位に大学生No.1外野手の辰己涼介(立命大)を獲得したが、オコエにとってもレギュラー取りへのチャンスは広がった。
現時点で新たな外野の布陣を見渡せば、左翼には昨季リーグ打撃成績8位の島内宏明と右翼に新人王の田中和基が最有力。中堅を辰己とオコエが競うことになるだろう。練習試合では一塁に入る新外国人のJ・ブラッシュが外野に回れば、さらに狭き門になる。目の色を変える時期が来たことは間違いない。
楽天には楽しみな若手の好素材が数多くいる。三塁定着が期待される内田靖人はファームの本塁打王経験者。浅村とブラッシュに次ぐ大砲が定着出来れば、最下位からの大逆襲もあり得る。一発があって盗塁も期待できるオコエはまさにチーム浮上のカギを握るピースである。
世は大坂なおみに、陸上ならサニブラウン、バスケットでもNBAドラフト1位が確実視される八村塁とハーフの時代。これまで「のんびり屋」「気分屋」として、ともすれば問題児扱いされてきたオコエ。キャンプでの変身度は本物か? 4年目の覚醒が実現したら、スケールの大きいスーパースターが誕生するだろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)