白球つれづれ2019~第13回・期待に応えた下位指名組
プロ野球開幕。早速、福岡ではソフトバンク・柳田悠岐と西武・山川穂高が、ど派手なアーチ競演を見せれば、北の大地では中田翔が初戦にサヨナラ満塁本塁打で吠えた。原巨人は広島相手に勝ち越し、丸佳浩がいきなり5打席連続三振も、一昨年の本塁打王であるA・ゲレーロや吉川尚輝らの奮闘で去年とは一味違う勝負強さを発揮した。
ルーキーに目を転じれば、ロッテの藤原恭大が高卒野手としてチーム54年ぶりの開幕先発を「1番・中堅」で飾り、初安打も記録。ソフトバンクの剛腕・甲斐野央も初登板初勝利を手にしている。セパ18試合に及ぶ開幕カードでサヨナラ決着が4度、最後まで予断を許さない2点差以内の接戦は9試合(引き分け含む)を数えた。この数字だけを見ても、やはり開幕は熱いことがわかる。
ビッグネームやフレッシュな新人に注目が集まる中、横浜DeNAは渋い脇役たちの活躍で中日に勝ち越し、好ダッシュを決めた。
1勝1敗で迎えた第3戦。同点で迎えた9回裏に口火のヒットを放ったのが守備職人の大和なら、つないだのが今季から先発オーダーに名を連ねる楠本泰史。そして仕上げは代打の切り札・佐野恵太だ。気迫の一打が左前に弾みサヨナラ勝ち。この3人、楠本が2017年のドラフト8位指名なら、佐野は16年の同9位。阪神から移籍してきた大和もまた、05年の高卒ドラフト4位。当時は高校生と大学・社会人の分離ドラフトが実施されている。つまり高卒4位とはチーム全体で見れば8位、9位相当の評価である。
「プロに入ればドラフト順位など関係ない」と言われるが、それでも下位指名の男たちが大事な開幕カードでの勝ち越しを、指揮官のA・ラミレスにプレゼントするのだから、素敵なドラマと言っていい。
今年、日本人として帰化したラミレスは、無類のデータ魔で知られている。グラウンドに現れるのは他の監督より遅い。球場入りすると相手投手と自軍選手の相性から、逆にどんな場面で誰を救援起用するか? あらゆる状況を想定してスコアラーから送られてくるデータと格闘するという。
また、「新しもの好き」でもある。毎年のようにキャンプでは期待の新戦力の名前が出てくる。今年なら投手で飯塚悟史に、打者では未来のクリーンアップ候補である細川成也などがスポーツ紙の紙面をにぎわせた。もちろん、レギュラーたちに刺激を与える狙いもあるが、名前や格にとらわれない評価は外国人指揮官の良さでもある。
開幕カードで躍動したドラ8・楠本
そんなラミちゃんが開幕カードで抜擢したのが楠本だ。初戦に「2番・右翼」で出場すると2打数2安打3四死球の10割出塁。とにかく選球眼がいい。中日先発・笠原祥太郎との左対左対決でもフルカウントに追い込まれながら四球を選んでいる。第3戦では不振の梶谷隆幸に代わって「1番」に座っても2安打を記録。オープン戦首位打者の勢いそのままに、強力打線の核弾頭に定着しそうな勢いだ。
それにしても近年のベイスターズのドラフト上手には目を見張るものがある。最近5年間のドラフト1位は山崎康晃(2014年)、今永昇太(2015年)、浜口遥大(2016年)、東克樹(2017年)と外れなし。今年の上茶谷大河(2018年)も先発ローテーションの一角として2日のヤクルト戦に先発する。
さらに15年のドラフト4位で戸柱恭孝、16年の同4位に京山将弥ら下位指名組にも戦力になっている選手は多い。楠本の場合、大学日本代表の4番も務め、俊足強打に定評がありながら、なぜ、こんな下位評価になったのだろうか? 東北福祉大時代の監督・大塚光二が当時の舞台裏を語る。
「脚と打撃は文句なしだった。ただ元々がショートを守っていたが送球が安定しないので、外野に転向したが(ドラフトまで)日が浅かった。そこでスカウトの方も使い方を含めて二の足を踏んだのでしょう」
ドラフトの8、9巡目と言えば、すでに選択指名を終了している球団も多く、まさに駆け込みゲット。ダイヤの原石は意外なところにも眠っている。
投手陣は質量ともに高水準にあり、N・ソト、筒香嘉智、宮崎敏郎、J・ロペスが中核をなす打線はリーグ屈指の破壊力を誇る。この数年、悩みの種である切り込み隊長に楠本が定着すれば、優勝戦線に躍り出てもおかしくはない。“ラミちゃんマジック”の鍵は、23歳の「ドラ8君」が握っている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)