コラム 2019.04.17. 10:00

イチローとボクたちの幸福な関係【ボクたちにはMLBが必要なんだ!】

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第10回:ラストダンスは私に・延長戦


 23時すぎに試合が終了。ボクは先ず、アスレチックス(ボブ・メルビン監督)の記者会見へ。

 メルビン監督は「勝てるチャンスを作ることは出来たが、残念ながら逃してしまった」、「菊池は良い投手だった。ストレート、変化球、それぞれを上手く投げ分け、緩急もありストライクになるカーブも素晴らしかった」との見解を示し、イチローがベンチに退く際の一連の流れについて「素晴らしい功績を残し尊敬に値するイチローの引退ということで、我がチームももちろん敬意を表したし、他のどのチームが対戦相手だったとしても同じように敬意を表しただろう」と述べた。

 イチローがメルビン監督のことについて話している映像がMLB公式にある。あの引退記者会見の前に、イチローはアメリカのメディア向けに記者会見を行っていた。その中でイチローは、“ボブ”との、メルビン監督との、不思議な縁を述べている。その記者会見の場には、記者や選手に混じってメルビン監督も居たようだ。記者会見自体も非常にリラックスしたいい感じなので、是非ご覧頂きたい。




菊池雄星にとってのイチロー


 その後、ちょっと待ち時間もありつつ、23時20分くらいから、菊池雄星の記者会見がスタートした。

「緊張はしなかったけれど、試合が始まってからメジャーリーガーとして始まるんだ、という高ぶりはあった」
「フルカウントが続いたけど要所要所で良いボールが投げられた」
「調子の善し悪しではなく東京ドームに来ていただいたファンの皆さんの後押しで投げられた」
「5回を投げきりたいという気持ちはあったけれど、MLBのしきたりにも従い、次への宿題として次の試合で初勝利を挙げたい」

 そして、イチローとチームメイトとして最初で最後の試合になることについて質問されると、言葉を詰まらせること約60秒。振り絞って出してくれたのは、「幸せな時間でした」という心からの言葉だった。

イチロー, 菊池雄星

 菊池が記者会見の中で「小学校3年の6月、電車とバスを乗り継いで、初めてプロ野球を、イチローさんを観に行った」と話していたのはおそらく、2000年6月6日(火)、盛岡市にある岩手県営球場にて行われたオリックス対ダイエーのことだと思う。オリックスがダイエーに11-1で圧勝したこの試合に、イチローは「4番・右翼」で出場。4打数2安打2打点1四球の活躍を見せた。

 東北楽天ゴールデンイーグルスが仙台に生まれる5年前の話だ。盛岡市の野球チーム、見前タイガースで一塁手として野球を始めた菊池少年は、地方開催でたまたま盛岡で行われた試合に出場したスーパースターと、まさかシアトル・マリナーズのチームメイトとして試合に出場することになるとは、本人ですら想像できなかったことだろう。


皆にとってのイチロー


 代表質問が終わり、ふと聞こえてくる大歓声。これはイチローが場内を一周しているのではないか、と気付いてフィールドレベルに向かうと、驚くほどの数のファンが観客席には残っていて、フィールドレベルにも沢山の人だかり。そこには、ちょうど場内を一周し終えようとしているイチローがいた。恐らく予定にはなかったのだろう。記者会見でも「今までの選手生活の中で今日が一番印象深い。死んでもいい、という気持ちは今日のようなシーンのことを言うのかな? 死なないけど(笑)」と振り返っていた。

イチロー

 再び記者会見場に戻ってくると、ちょうど菊池の記者会見が終わるところ。そうだ「イチローの会見場につながる地下通路に向かわなきゃ」と、とりあえず歩を進めたものの、初めての東京ドームのバックヤード。どこに何があるかわからない。同行のBASEBALL KINGの記者さんからメールで「席取ってあります」との連絡。するとお世話になっている別の媒体の記者さんを発見し「一塁側!一塁側!」との指示をもらって向かうと、何だかロールプレイングゲームで洞窟が現れたような感じで地下通路の入口が現れた(笑)。歩くこと数分、地下通路をくぐり抜けると、そこには記者会見場になった東京ドームホテル地下一階の宴会場が現れた。

 時計の針が24時を告げようかというタイミングで、イチローが登壇して記者会見がスタート。


 シアトルのユニフォームを着てこの日を迎えられたことに大変幸せを感じていること。今日のこと、日本での開幕戦までが契約上の予定だったこと、引退を決めた時期はいつだったのか、昨年5月から今日までのことなど、今まで明かされてなかった今日までの出来事。おべんちゃらを言わずに本音だけを語るイチロー。

 引退よりもクビが心配だったニューヨークとマイアミでの日々。日本のいわゆる「プロとアマの壁」について単純に「おかしくない?」と言うイチロー。仰木監督との主にお酒にまつわる思い出。アメリカで外国人として生きることで体験した、今までなかった自分の一面を理解すること(この一番最後の、Full-Count木崎さんの質問は本当に素晴らしかった)。

 取り上げればキリがないし、様々な媒体で語られているから、ここではボクが聞きたかったことを記すことにする。実はボクも最後の20~30分はチャッカリ手を挙げていた……。

イチロー


ボクにとってのイチロー


 野球の世界大会であるWBCに積極的に参加し、昨年5月には「野球の研究者でいたい」と仰っていた。今年はロンドンでも公式戦を開催するなど、昨今MLBは世界への野球の普及に熱心に取り組んでいる。引退後、その研究の一環として、世界の野球の普及に興味はありますか?

 午前1:20頃、「締まったね、最後!そろそろ帰りますか!」との言葉で記者会見は終了。何で自分がここにいるのか、ちゃんと理解出来ぬまま、でも最後の方は手も挙げ、当てられなくて実はホッとしたりしながら、もし聞けていたら何ていう答えを返してくれたのかと考えながら、ホテルのタクシー乗り場の長蛇の列を横目にボクは水道橋駅の方に向かい、タクシーを拾って2時前に帰宅した。

イチロー

 ボクの日本での記者デビュー戦は、とんでもない出来事の連続だった。ましてやあの記者会見に自分がいたことも、まだキチンと理解が出来てない自分もいる。

 だけど、あの日あの時あの場所に、何らかの理由があってボクはいたんだ、と思うと、イチローが記者会見の最初の方で子供たちに向けて発した言葉、「自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注ぐことが出来るので、そういうものを早く見つけて欲しい」という言葉の重みを感じずにはいられなかった。


文=オカモト“MOBY”タクヤ(おかもと“もびー”たくや)

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