詰まりながらもスタンドインさせるパワー
少し気が早いかもしれないが、今季のセ・リーグ新人王レースが加熱している。以下は、セ・リーグ新人王有資格者のうちで、とくにここまでの活躍が顕著な3選手の成績だ。
【セ・リーグ新人王候補成績】
出塁率.341 / 長打率.541
▼ 近本光司(阪神)32試合(117-37)
打率.316 4本塁打 18打点 11四球 10盗塁
出塁率.375 / 長打率.513
▼ 床田寛樹(広島)6試合(40回2/3)※5QS
4勝1敗 自責点7 38奪三振 与四死球17
防御率1.55 / WHIP 1.06
いずれ劣らぬ見事な成績だ。村上宗隆(ヤクルト)はここまでリーグ3位タイの22打点を挙げ、チームの先輩・バレンティンと並ぶリーグ5位タイの8本塁打を記録。その8号アーチが生まれたのは5月3日の中日戦だった。8回、福敬登の内角高め直球をとらえた打球は一瞬詰まったかに見えたが、広いナゴヤドームの右中間スタンドに着弾。人並み外れたパワーを見せつけた。
現在、村上はシーズン34本塁打ペースだ。しかも、村上は2月に19歳になったばかり。1994年の松井秀喜(巨人/20本塁打)以来となる、高卒2年目での20本塁打も十分過ぎるほど射程圏内にある。
評判通りのスピードと予想外の長打力
一方、近本光司(阪神)は広角に打ち分ける高い打撃技術で魅せている。
5月5日のDeNA戦でも京山将弥の投じた外角低めのカットボールを逆方向に打ち返し、左前適時打をマークした。しかも、ただのアベレージヒッターではない。意外なほどの長打力も見せる。これまで4本塁打に加えて3本の三塁打、5本の二塁打もマークしている。
リーグトップタイの10盗塁をマークしているスピードから「赤星(憲広/元阪神)2世」とも呼ばれるが、身長170cmと小柄ながらどっしりとした構えから、当てにいくのではなく振り切るスイングは金本知憲・前阪神監督を思い起こさせるという声もあるほどだ。
村上と近本の野手ふたりはタイプがまったく異なるところが興味深い。10代で20本塁打、30本塁打を記録するようだと村上に軍配が上がりそうだが、守備も含めた総合力が高い近本が盗塁王などのタイトルを獲得することにでもなれば、それこそ票が割れそうだ。
また、例年、野手より新人王となることが多い投手では床田寛樹(広島)が好調だ。チーム念願の先発左腕は現在4連勝中。先発6試合のうち5試合でQS(クオリティ・スタート/6回以上を投げて自責点3以内に抑える)を達成し、リーグ2位の防御率1.55を誇るなど安定した投球を続けている。チームは連勝と連敗を繰り返してなかなか波に乗れないが、先発ローテーションに頼もしい若手が加わったことは確かだ。
もちろん、このままシーズンを通して好調を維持し続けることは簡単ではないだろう。事実、近本は5月5日のDeNA戦で背中の張りを訴えて途中交代した。近本が軽症であることを願いつつ、川上憲伸(中日)、高橋由伸(巨人)、坪井智哉(阪神)、小林幹英(広島)が超ハイレベルな争いを見せた「1998年」のような熱い新人王レースに期待したい。
※数字は5月5日終了時点
文=清家茂樹(せいけ・しげき)