短期連載:真夏のミステリー?
ペナントレースは各チームとも100試合以上を消化し、いよいよ真夏の正念場を迎えようとしている。
平成から令和へ。時代の変革とともに野球界でも例年とは一味違う傾向や現象が生まれている。そんな変化の正体は何なのか? 今年の顕著な異変に迫ってみたい。
第1回:捕手の打率が上がった?
ところが、今季はそんな風潮とは裏腹に、捕手の打撃が軒並み上昇している。各球団のレギュラー及び、レギュラークラスの打率成績(7日終了時点)を列挙してみる。
▼ セ・リーグ
打率.263(.219):小林誠司(巨人)
打率.261(.195):伊藤 光(DeNA)
打率.274(.305):会沢 翼(広島)
打率.266(.259):梅野隆太郎(阪神)
打率.195(.――):加藤匠馬(中日)
打率.284(.211):中村悠平(ヤクルト)
▼ パ・リーグ
打率.255(.213):甲斐拓也(ソフトバンク)
打率.252(.215):清水優心(日本ハム)
打率.333(.275):森 友哉(西武)
打率.131(.174):堀内謙伍(楽天)
打率.246(.239):田村龍弘(ロッテ)
打率.190(.245):若月健矢(オリックス)
※カッコ内は昨季の最終成績
※各球団の最多スタメン出場捕手
試合出場数のバラツキや、伊藤光のような故障で離脱中の選手もいるが、概ねの打力アップはこれでわかるだろう。
なかでも別格は西武の森友哉だ。並みいる強打者を抑え、パ・リーグの打率トップを快走中。得点圏打率(.376)も群を抜いている。このままのペースでいくと、パ・リーグでは1965年の野村克也(当時南海)以来、実に54年ぶりとなる「捕手による首位打者」誕生も夢ではない。
“1人の正捕手”にこだわらない時代のなかで
また、飛躍的な向上を見せているのがヤクルト・中村悠平と巨人・小林誠司、ソフトバンク・甲斐拓也ら。いずれも昨年は2割1分台の低率で苦しんでいたが、ここまでのところは見事な成長曲線を見せている。
捕手の打撃向上にはいくつかの要因がある。近年、複数捕手制を取るチームが大半で、守備だけでなく打撃の良い捕手にも出番が増えたこと。特にDH制のないセ・リーグでは、捕手が打てなければ投手の打順を含め、下位打線に大きな穴が開くことになる。巨人の小林などは原辰徳監督の用兵によって炭谷銀仁朗、大城卓三との併用が多くなり、尻に火が付いた状態。打てなければ即ベンチ要員なのだから、アピールに必死だ。
もちろん、本人たちの日頃からの努力は欠かせない。ソフトバンクの甲斐は昨オフから打撃改造に乗り出した。「打ちに行く際、左肩があおって開く癖があった。今年はそれが矯正されたのが打率アップにつながっている(立花打撃コーチ)」。今季はすでに2ケタ本塁打も達成するなど、故障者続出で苦しむ打線にあってその貢献度は大きい。
捕手というポジションはケガも多く、対戦相手のデータ研究から自軍投手の出来に応じて臨機応変なリードも求められる。打撃練習に割く時間は他の野手陣より少ない頭脳職。それでも、今年の捕手は「安全パイ」ではなくなった。彼らの打棒が、混戦模様のペナントレースをさらに面白くしていきそうだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)