2年目から虎の正遊撃手として君臨
勝負の9月戦線を迎えたプロ野球界に、衝撃のニュースが飛び込んできた。
阪神の鳥谷敬が8月31日、甲子園で行われた巨人戦の試合前に報道陣からの取材に対応。今季限りで慣れ親しんだタテジマのユニフォームを脱ぐことを発表したという。
今年でプロ16年目・38歳を迎えた背番号1は、この2019年シーズンが5年契約の最終年。球団から事実上の引退勧告を受けたことを明かし、残された道はそのまま現役を引退するか、他球団での現役続行を目指すか…。いずれにしても、阪神のユニフォームを着てプレーする姿が見られるのは今季限りとなる。
2004年に早稲田大から阪神に入団した鳥谷。ルーキーイヤーから藤本敦士と遊撃手のレギュラーポジションを争いながら101試合に出場すると、以降は長きにわたって虎の正遊撃手として活躍。その間、鳥谷という選手を象徴する記録でもある連続試合出場は歴代2位の『1939試合』。連続試合フルイニング出場は歴代4位の『667試合』に及ぶ。
そうして長く試合に出続けられたのも、ケガをしない体をつくってきたことに加え、チームが期待する働きをし続けられたからに他ならない。鳥谷の魅力というと、そういった“安定感”ということになる。
いまでこそ「守備範囲が狭くなった」など守備力の低下を指摘される鳥谷だが、かつては正確なスローイングやとくに三遊間の打球への高い対応力を武器に球界随一の遊撃手とたたえられ、実に5度のゴールデングラブ賞を受賞している。
7月・8月の月間打率は4割超え
また、打撃においても、やはり武器は“安定感”だ。
卓越した選球眼によって2011年から3年連続でリーグ最多四球を記録するなど、たとえ打率が3割に届かないシーズンでも高い出塁率によってチームに大きく貢献した。最後までボールを見極めるためなのだろう、逆方向への打球が多いことも鳥谷の打撃の特徴。力任せに叩くのではなく、こすり上げるように放たれる左中間への美しい放物線こそ、鳥谷らしい打球である。
そうして積み上げられた安打は現在のところ『2082』。これは藤田平(2064本)や吉田義男(1864本)といったレジェンドたちを抑え、阪神の生え抜き選手として歴代1位の数字である。近年はその能力の衰えを指摘されることも多い鳥谷だが、あらためて実績を振り返れば、そうそう現れることもないスター選手であることは明らかだ。
しかも、その衰えについても「まだやれる」と見る声も多い。今季はシーズン開幕から打撃不振が続き、ここまで87打席に立っていまだ打点ゼロという低迷を続けてきたものの、7月・8月の月間打率はともに4割を超えている。その力を必要として手を挙げる球団はきっと出てくるだろう。
虎一筋で16年戦ってきた男だけに、他のチームのユニフォームを着ている姿が想像できないというファンの声も多い。なかには受け入れられないという方もいるかもしれないが、もし仮に新たなユニフォームに袖を通すことになったとしたら、新天地で阪神のフロントを見返すような成績を残すことが、長年にわたって応援し続けた阪神ファンへのなによりの恩返しとなるのではないだろうか。
まずは残り1カ月ちょっとの2019年シーズンをどのように過ごし、そして最後に“どちらの道”を選ぶのか…。鳥谷の動向から目が離せない。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)