白球つれづれ2019~第41回・監督の果たす役割とは
ラグビーW杯の熱狂の前に、やや影の薄い感もある野球界だが、いよいよ19日から日本シリーズに突入する。ソフトバンク対巨人。ソフトバンクの指揮官・工藤公康の「鬼采配」が話題になっている。
ポストシーズンに入ると、楽天とのクライマックスシリーズでは松田宣浩を先発から外し、西武とのファイナルでも内川聖一に代打を起用。共にチームの大黒柱にもかかわらず「勝利に徹する」と非情の決断を下している。そして、いずれも代役が結果を残すのだから、ペナントレース2位からの勝ち上がりもうなずける。
対する巨人の監督・原辰徳は、相手の虚をつく「神采配」が光っている。
対阪神戦では亀井善行と坂本勇人の重盗で流れを引き寄せる。最終第5戦では、丸佳浩が二死から意表を突くセーフティースクイズで決勝点をもぎ取った。この場面、ベンチからのサインではなかったが、「どうしたら得点を挙げる確率が高いか」を丸が瞬時に判断したファインプレーだった。
こちらは日頃からの教育と意識改革が功を奏したものである。投打のバランス、戦力層などを考えると、ややソフトバンクに分があるように思うが、いずれにせよ今シリーズは工藤と原による指揮官の知恵比べに大きな関心が集まりそうだ。
3人の監督が交代
こうした華やかな舞台の影で、今季も3人の監督がユニホームを脱いでいった。広島3連覇の功労者である緒方孝市は、夏頃から体調不良を訴えていたと言われる。Bクラス転落の責任も感じて自ら退任を決断した。昨季の2位から最下位に沈んだヤクルトの小川淳司は、記録的な大敗で辞任もやむを得ないだろう。
もうひとりは、楽天の平石洋介。一昨年の監督代行期間はあるものの、正式に就任してからわずか1年という短命に終わった。こちらは前年最下位のチームを立て直して、最低限のノルマと見られてきたAクラスを実現しての退任ということもあり、チームの内外から驚きの人事と受け止められた。
10月5日に球団事務所でGMである石井一久と会談した平石は、その場で1年契約の任期満了と来年度から「二軍統括」としてチームの運営に携わるよう要請を受けたが、15日に退団を発表した。「平石退任」を9月中旬時点でスクープした日刊スポーツによれば、両者は8月頃から会話をする姿を見かけなくなったと報じている。何らかの意思疎通を巡る齟齬が生じていたのか?
唐突な監督交代を説明するために、この会見後に石井は「チームの進むべきビジョン」と題する文書を報道陣に配布している。中身の要約は以下の通りだ。
【1】昨年、今年とバントやスクイズなどの精度、サインミス、走塁を含めた先の塁への意識改革がなされていない。
【2】隙のないチームの伝統を作り上げていくには一軍公式戦の中でも教育や意識改革を徹底していかなければならない。
【3】平石監督に適性がないという事ではなく、指導者にはそれぞれ得意分野がある。長きにわたる(チームの)課題に対して、より適した方に来ていただく必要がある。私は監督が「最後の職」という古い考え方は持たない。
それから10日近くたった14日、後任監督には前二軍監督だった三木肇の就任が発表された。三木と言えば、ヤクルト時代には山田哲人らにスキのない走塁を教え込んだ守備走塁のスペシャリスト。石井の求める緻密な野球を推し進めるには適任かも知れない。
一方で、来季のチームスタッフの顔ぶれを見ると、二軍バッテリー兼守備作戦コーチだった野村克則が一軍作戦コーチに、二軍の投手コーチには今季までヤクルトの現役だった館山昌平が就任。昨年には伊藤智仁も投手コーチに就いており、ヤクルトOBの色彩が濃い顔ぶれだ。かつてヤクルトのエースとして鳴らした石井の影響力が増していることをうかがわせる。
しかし、今回の楽天の監督交代劇を見ていくと、「監督の役割と立場」そのものを考えさせられる。一軍を率いる将の条件とは何なのか? これまでの常識から言えば、指揮官とは全軍を統括して、勝利への最善の指揮を執ることが大前提。緻密な野球を標榜しているとしても、それは監督に求めるというより、守備走塁の専門コーチがいる。
サインミスが多いとしたら、作戦コーチあたりの領域だ。ましてや、チーム内の誰もが将来の幹部候補生と見てきた39歳の平石を1年で見限るのは早計と言えないか? 結果がすべての世界、1年契約だから問題なし。一見華やかに見える監督業も一皮むけばサラリーマンより厳しい。時代は確実にドライな世界へと変わっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)