コラム 2020.01.02. 18:00

圧巻の2大記録と新たな物語のはじまり【バック・トゥ・ザ・プロ野球 201×】2013年編

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IOC総会で、東京のプレゼンテーションをする滝川クリステルさん=ブエノスアイレス(2013年9月7日)

「おもてなし」から6年


 さらば、2010年代。

 ついにオリンピックイヤーの2020年に突入したが、その東京五輪開催が「お・も・て・な・し」で決定したのは2013年9月7日のことだった。

 TBSドラマの『半沢直樹』は視聴率42.2%を記録し、「倍返しだ!」がブームに。NHK朝ドラ『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」も大人気になった。……とこうして振り返ると、わずか6年前の出来事だが、今よりテレビドラマに影響力と底力があったことを実感する。

 動画配信サービスやスマホでのドラマ視聴もここ数年で一気に浸透、あの頃はまだ店舗でレンタルDVDソフトを借りていた人も多いのではないだろうか。会社帰りに牛丼大盛りをかきこみ、勢いで5枚1000円のエロDVDを借りて帰るあのすべての男の絶望的なルーティーンすら懐かしい。あらゆるジャンルは時の流れとともに変化する。

 プロ野球だってそうだ。この10年間で色々な出来事があった。そんな2010年代の球界をシーズン別に独断と偏見のランキング形式で振り返る企画『バック・トゥ・ザ・プロ野球 201×』。第1回はヤンキースのイチローが日米通算4000安打達成、長嶋茂雄と松井秀喜の国民栄誉賞受賞と多くのニュースがあった「2013年(平成25年)」を掘り下げてみよう。


プロ野球史に残る偉大な記録が誕生


▼ 第5位:ドラフト会議で西武が森友哉を単独1位指名!
 超高校級サウスポー松井裕樹(桐光学園)に5球団が1位指名で競合し、楽天が交渉権を獲得。松井は19年シーズンまでの6年間で30セーブ以上を4度、19年には38セーブで自身初となる最多セーブのタイトルに輝いた。年俸は2億5000万円にまではね上がり、プライベートでは女優の石橋杏奈と電撃婚と、公私ともに立派な大人のプロ野球選手である。

 大瀬良大地(九州共立大)にはヤクルト、広島、阪神のセ3球団が1位指名。広島が交渉権を獲得したが、もしヤクルトか阪神が引き当てていたらその後のセ・リーグのパワーバランスにも影響があっただろう。のちの球界を変えたと言えば、西武が高校No.1キャッチャー森友哉(大阪桐蔭)の単独1位指名に成功。令和の打てる捕手は、19年MVPプレーヤーにして、西武V2の原動力となった。


▼ 第4位:前田智徳、宮本慎也、山崎武司ら現役引退
 通算2119安打の前田智徳(広島)、2133安打の宮本慎也(ヤクルト)、通算403本塁打の山崎武司(中日)ら平成の名選手が続々と引退。右肩の故障に苦しみ11年からリハビリ担当コーチとして選手復帰を目指していた斉藤和巳(ソフトバンク)もシーズン中の7月28日に引退会見を開いた。

 ちなみに引退セレモニーで涌井秀章(西武)が「今まで見てきた背中で誰よりも頼れる背中でした。これからはカズさんみたいな人を目指して……」とメッセージを送った先輩は、令和元年のストーブリーグで積極的に動いた現楽天GMの石井一久(西武)である。まさに今にして思えば……の出来事の数々。プロ野球は数年かけて伏線を回収する『スター・ウォーズ』級の大河ドラマだ。


▼ 第3位:歴史的なルーキー当たり年、大谷翔平二刀流デビュー
 この年、第3回WBC(日本は準決勝でプエルトリコに敗退)が開催され、各球団の主力投手が代表招集されたこともあり、プロ野球では29年ぶり、パ・リーグでは55年ぶりの新人開幕投手を務めたのが則本昂大(楽天2位)だった。則本は15勝を挙げ、新人王を獲得。セ・リーグでは藤浪晋太郎(阪神1位)が江夏豊以来46年ぶりのセ高卒新人二桁勝利を達成。菅野智之(巨人1位)は13勝を挙げチームのV2に貢献、小川泰弘(ヤクルト2位)は16勝で最多勝と新人王に輝いた。

 そんなルーキー大活躍のシーズンでも、話題を独占したのは大谷翔平(日本ハム1位)の“二刀流”だ。球界の常識をぶっ壊す挑戦で6月18日の広島戦では「5番投手」として先発マウンドへ上がった。4人の二桁勝利投手に歴史的な二刀流という歴史的な超当たり年。ちなみに、いまや畠山愛理の夫で侍ジャパンの4番バッター鈴木誠也(広島2位)も高卒野手ながら11試合に出場してプロ初安打を放っている。


▼ 第2位:バレンティン60本塁打の日本新記録達成!
 そのゴールデンルーキー大谷が、5月23日の投手デビュー戦で球速157キロを計時した相手打者がバレンティン(ヤクルト)だった。13年のバレ砲は第1号が開幕16試合目で「今季のバレは大丈夫か?」なんて心配される中で来日3年目のスタートを切る。

 しかし、4月29日のDeNA戦で1試合3発、6月には四球を挟んだ4打数連続弾の日本タイ記録。7月13日に30号、8月11日に40号、8月27日にはついに50号到達。特に8月は凄まじいペースで打ちまくり、月間17本の日本新記録を達成する。9月11日の広島戦でシーズン最多記録に並ぶ55号を放ち、4日後の阪神戦で日本新の56号とアジア新の57号を連発。もちろん3年連続のホームラン王を獲得し、10月4日にはメッセンジャー(阪神)から60号を放ち大台到達で締めた。

 この年の背番号4の本塁打率7.32は、73年の王貞治8.39(51本塁打)や86年の落合博満8.34(50本塁打)を上回り歴代最高。リーグ2位のブランコ(DeNA)には19本差をつけての大独走キングだったが、首位打者と打点王はそのブランコに僅差で逃げ切られ、三冠王は逃した。

 なおバレンティンはオフにキリンビール『澄みきり』のCMにも抜擢。2020年は新天地で携帯電話のCMに登場するくらいの活躍が期待される。


▼ 第1位:田中将大24勝0敗で楽天初日本一!
 「マー君、神の子、不思議な子」なんてルーキー時代に野村克也監督から評された田中将大(楽天)も当時プロ7年目の25歳と投手として全盛期を迎えていた。

 星野仙一監督のもと春季キャンプから「今年の野球界の主役は俺たち楽天だ!」宣言。絶対的エースは5・6・7月にリーグ初の3カ月連続月間MVP受賞と序盤から飛ばしまくり、前半戦は13勝0敗。後半戦も11勝0敗と勢いは衰えず、シーズン24連勝を記録。24勝0敗、防御率1.27という神がかった数字で最多勝、最優秀防御率、最高勝率のタイトルを総なめにし、前人未到の5カ月連続の月間MVP受賞でシーズンを終え、球団創設9年目の初日本一まで突っ走った。

 オフにはポスティング制度でヤンキースへ。メジャーでも現在6年連続二桁勝利中で通算75勝43敗(日米通算174勝78敗)と負けない投手ぶりは健在だ。

 あたらめて振り返ると、13年の田中は年間212投球回と投げまくり、ポストシーズンも先発ローテの大黒柱でフル回転しながら、リーグ優勝決定試合、CSファイナルステージ第4戦、日本シリーズ第7戦のすべてでリリーフ登板して胴上げ投手になっている。

 もしかしたら、球数制限が度々議論になる今の球界の風潮なら、星野采配は「酷使」とSNS上で炎上していたかもしれない。時代とともに価値観は変わる。近いようで遠くなりつつある平成プロ野球である。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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