第3回:生き続けた拡張構想
「出来るものなら16(チーム)に。あと4つチームが誕生して欲しい」
ソフトバンクの王貞治球団会長が地元・福岡のテレビ番組で語った言葉が波紋を広げている。さらに、同会長は採算面の問題は残るとしながら、こうも続ける。
「選手たちにとっても、高校、大学でやっている人も受け皿があった方が絶対にいい」
王さんと言えば現役時代の実績はもちろん、今では最強軍団を束ねる経営陣の重鎮であり、その発信力は球界随一と言っても過言ではない。しかも、日頃から大言壮語を吐くタイプではない超大物の発言だけに、今後の球界再編に一石を投じた格好だ。
現行のプロ野球12球団から16球団への拡張策。実は今回が初めての話題ではない。2014年に地方創生の観点から国会で取り上げられている。しかし、行政の立場からの議論で、野球界の現場では「現行の12球団でも黒字チームはわずかで現実味がない」と冷ややかな反応に終始している。
それから4年後の18年には、大手ファッション通販サイト『ZOZOTOWN』などのサービスを運営する株式会社ZOZOの社長だった前澤友作氏が、「プロ球団を持ちたい」と宣言して話題を呼んだ。
結果的には売却球団もなく終息したが、当時、取材を受けた「ホリエモン」こと堀江貴文氏は「(水面下では)16球団の動きがある」と経済界の流れを語っている。つまり、16球団への拡張構想はずっと生き続けてきたと見るべきだろう。
球界再編と拡大路線の気運
2000年代前半、野球界は近鉄球団の売却を機に大揺れに揺れた。巨人、西武らを中心に1リーグ構想が実現寸前までいったところで、選手会の古田敦也会長(当時)はストライキで抵抗するとファンの声も2リーグ存続で高まり、楽天球団が誕生した。
1リーグは球団数を8~10球団に縮小するものだが、メジャーリーグでは逆に球団と本拠地を拡張する政策を打ち出していた。サッカー界ではJリーグ発足後にJ2、J3とこれも拡大路線をとっている。
結果的にはそれが全国各地に「おらがチーム」を生み、ファンと競技人口の掘り起こしにつながっている。日本球界に16球団の本格論議が始まってもおかしくない。
すでに、国内では日本野球機構(NPB)とは別に東日本を中心とした「ルートインBCリーグ」と四国を中心に活動する「四国アイランドリーグ」の組織がある。ここに今季から沖縄でも初のプロ球団が誕生した。元楽天監督の田尾安志氏をエグゼクティブ・アドバイザーに迎えた「沖縄ブルーオーシャンズ」だ。
宜野湾市と浦添市を本拠地にして宮古島を準本拠地とするオール沖縄、当面は独立リーグに属さず、NPBの二、三軍や四国、さらに台湾のプロ野球とも交流戦を戦いながらNPBへの参加を目指すと言う。この、沖縄以外にも新潟や静岡、さらに四国あたりがプロの空白区であり、4球団の拡張が議論されて来れば名乗りを上げることが予想される。
不可欠な変革
昨年度の12球団の観客動員数を見るとセパ共に新記録を樹立、チーム別でも日本ハムを除く11球団が前年比を上回っている。野球人口の減少や人気低迷も指摘されるが、球場に足を運ぶ回数は増えている。
特にソフトバンクや楽天、DeNAといったIT企業の参入後、球場のボールパーク化などが進み収益の大幅改善につながった。これにより魅力のある野球経営を希望するオーナー予備軍?はかなりいるという。
王会長には16球団にすることによって、もう一つの狙いもある。米大リーグに倣ってセパでそれぞれ東と西地区に分かれて4つのディビジョンによる地区プレーオフから日本シリーズへ。こうすれば現行の各リーグ6チーム中3チームまでが日本一の可能性を残すプレーオフシステムよりスッキリする。
これまでの野球界は新規参入に対して閉鎖的と言われてきた。既得権を守るあまり外部の血の導入に消極的だったからだ。だが、野球そのものの生き残りが問われる時代に変革は不可欠である。王会長の発言は、そんな球界に一石を投じる意味があったはず。令和新時代、岩盤規制は少しずつ動き出すのかもしれない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)