白球つれづれ2020~第5回・二十歳の怪物くん
ヤクルトの村上宗隆選手が2日に20歳の誕生日を迎えた。改めて昨年の36本塁打、96打点の活躍が19歳で成し遂げられたことに驚く。野球史に残る中西太(西鉄)や清原和博(西武)らの10代の記録を塗り替えた“怪物くん”の前途は洋々、杉村繁打撃コーチは「今までは青木や山田のチームだったが、これからは村上のチーム」と全幅の信頼を寄せる。
だが、“怪物くん”が真の怪物になっていくためには、まだいくつもの課題をクリアしていかなければならない。勝負の3年目である。
さらなる進化を目指して
元々、右にも左にも広角に打てる柔軟性は持っている。しかし、一発を狙うあまり、低めに落ちるボールに空振りが目立っていた。厳しい内角攻めは昨年以上に増えるはず。要はこのあたりの悪球に手を出さず、狙い球を絞ることで打率の改善を図りたい。年明けには米国・ロサンゼルスで先輩の青木宣親らと自主トレ、安打製造機の極意に触れてさらなる進化が望めそうだ。
第二の課題は守備面の向上だ。沖縄・浦添キャンプのシートノックでは三塁の守備に就いている。今季は一塁との併用プランが確定しているが、首脳陣とすれば、ゆくゆくは大型三塁手として育てていきたい。
前年は開幕直後には三塁手として起用されたが28試合で10失策、6月以降は一塁が定位置となった。九州学院高時代は強肩強打の捕手として鳴らしただけに内野への転向はプロに入ってから。1年目の宮崎・西都キャンプではフライも満足に捕れなかったという。
「守備ではチームに迷惑をかけた。今年は少しでも上達して足を引っ張ることなく貢献したい」という村上には連日、特守メニューが予定されている。今季から新外国人選手としてA.エスコバーが入団した。メジャーでもゴールデングラブ賞の常連として名高い名遊撃手だ。低い構えからの柔らかいグラブさばきは生きた手本、間近で名人芸に接することで、どんな化学反応が起きるのか注目だ。
怪物レースにも注目
最後の壁は、主砲、W.バレンティン選手の抜けた穴をどう克服していくか?という点。昨年度のチーム本塁打167本は巨人に次いで2位ながら、村上36本、山田35本にバレンティン33本塁打で、大半はこの3人が量産したものだ。
元本塁打王のソフトバンク移籍は、これまで以上に村上への負担増を意味する。トリプルスリーの常連である山田哲人選手を1番に据えた場合には、クリーンアップの長距離砲は村上だけにもなりかねない。4番へのマークは当然より厳しくなる。こうした、いくつもの難関を乗り越えたとき、初めて真の怪物が誕生する。
「日々、成長しているし非常に期待しています」と語る高津臣吾新監督。最下位からの逆襲は村上の存在なくしてはあり得ない。
キャンプ序盤の球界は佐々木朗希(ロッテ)や奥川恭伸(ヤクルト)らの大物ルーキーが話題を独占する。2年前には清宮幸太郎(日本ハム)、安田尚憲(ロッテ)両選手らが人気を集め、村上は第3、第4の大物候補に過ぎなかった。
その清宮は右ヒジの故障が気になるものの、今季は指名打者として爆発が期待されている。昨年、イースタンリーグで本塁打、打点の二冠に輝いた安田も満を持して一軍でブレークの予感がする。頭2つから3つ抜け出した村上と、それを追うライバルたち。二十歳の怪物レースからも目を離せない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)