短期連載:指揮官たちの春
プロ野球のキャンプもたけなわ、各球団は基礎的なトレーニングから、いよいよ実践に向けた本格調整に入っていく。紅白戦や練習試合・オープン戦を戦う中で新戦力の発掘や振り分けとともに監督たちは、勝つためにどんな野球を掲げて長丁場を乗り切ろうとしていくのか?
今年もヤクルト・高津臣吾、広島・佐々岡真司、楽天・三木肇と3人の新監督が誕生した。もちろん、ソフトバンク・工藤公康、巨人・原辰徳といったベテラン指揮官も手ぐすねを引く。秋の勝者は「1/6」、いや「1/12」でしかない。この連載では4人の指揮官に焦点を充て、必勝の思いに迫ってみたい。
第1回:楽天・三木肇監督はチーム体質を変えられるか?
東北の楽天ファンの間では、新チームの組閣について疑問視する向きもあったと聞く。前年度最下位から曲がりなりにもAクラスに引き上げた平石洋介監督の退団劇に釈然としないものを感じたからである。その平石は、球団の用意したフロント職を蹴ってソフトバンクの打撃兼野手総合コーチに就任。前年度監督だった者が翌年にライバル球団のコーチに就く例は珍しい。そして、平石の後任には二軍監督だった三木肇が指名された。
失礼ながら、これまでの知名度は低く、地味と言えば地味な監督誕生だ。あえて、地元や選手間には人望のあった前任者を斬ってまで? 人事を強行したのは石井一久GMである。
「イーグルスを中長期的に優勝を目指せるチームにしていかないといけない」とする同GMは、新たなチームの立ち上げに際して異例の文書を報道陣に配布している。この中で、特に強調したのが、バントやスクイズの精度、サインミスの多さの克服、走塁を含めた先の塁への意識改革などだった。
確かに昨年のデータを見れば、チームの弱点は一目瞭然だ。チーム防御率はリーグ2位。同打率は4位ながら2位の日本ハムとはわずか2厘差。つまり投打のバランスは悪くない。ところが接戦に弱く、1点差試合は16勝26敗のリーグワースト。さらにその要因を調べてみると、チームの盗塁数48はトップの西武(134)と比べて90近くも少ない。おまけに送りバントの成功率もリーグワーストの「.797」だ。
つまり、そこそこに塁上を賑わすものの肝心な場面で送れない、走れない。そこに石井GMの指摘するサインミスなどが加われば優勝ラインには届かない。そこで野村ID野球の血を引く三木監督の出番となった。
野村さんの教えをベースに
沖縄・久米島でのキャンプ初日から新監督の目指す方向が垣間見える。アウトカウントや走者の状況を示したうえで打者が取り組むシート打撃。仮に「無死一塁」の想定した場面だけでもバント、バスター、エンドランと選択肢はある。これが「無死二塁」や「一死一・三塁」など、何通りもの作戦に沿って打者はベンチの要求に応えなければならない。
この日は「無死一・二塁、カウント3-2、ゴロエンドラン」の場面で島内宏明選手がライナー性の左前打を放ち満塁としても、指揮官は合格点を与えない。
「ゴロ指定、ヒットで満塁になっても結果オーライじゃダメ。やることをしっかりやろう」と注文が飛んだ。これが三木の目指すスモールベースボールである。
現役時代は目立たないバイプレーヤーながら、ヤクルト時代に野村克也監督から野球の奥深さを叩き込まれた。トレード先の日本ハムで二軍コーチを拝命すると一貫してコーチ稼業。2015年にはヤクルトの一軍ヘッドとして真中満監督のリーグ優勝をサポート、18年から楽天に移籍すると昨年は二軍監督としてチーム初のイースタンリーグ優勝を成し遂げた。
「野村さんの教えをベースにして瞬時にプレーの選択、判断ができる状況判断力を養って、色々な戦い方のできる強いチームに成長させたい」。
則本昴大、岸孝之、松井裕樹らを擁する投手陣はリーグでもトップクラス、浅村栄斗に茂木栄五郎選手らを核とした野手陣もタレントは揃っている。そこに懸案である緻密な野球が実現すればパの主役に躍り出てもおかしくない。
スピードと結果を求めるのが楽天という企業。この数年、短命監督が続いているが、三木ならぬ三木谷浩史オーナーの胴上げまで実現できるか? チームの意識改革は始まったばかりだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)