コラム 2020.02.25. 19:23

セ・リーグの「2番打者戦争」を読み解く【白球つれづれ】

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DeNA・オースティン

白球つれづれ2020~第8回・新チームの2番打者たち


 DeNAの新外国人選手、T・オースティンが打ちまくっている。24日に行われた日本ハムとのオープン戦では斎藤佑樹投手の甘いカーブを仕留めて左越に一発。これでオープン戦3試合で7打数6安打、打率は8割超え、3本の本塁打を含めた長打率に至っては24割超と天文学的な数字だ。

 この時期の好不調は必ずしもシーズンに直結するものではないが、これだけ素材の良さを発揮すれば主砲・筒香嘉智選手のメジャー挑戦で打線に空いた穴も解消の目処が立ったと言えよう。


 開幕まで1カ月を切った。各チームとも若手有望株のテスト期間から、より本番を意識した振るい落としが始まっている。と同時に、今季の先発メンバーの輪郭が見え出す時期でもある。

 DeNAのラミレス監督は、このオースティンを2番打者として起用し続けている。それだけではない。セの各チームを見ると「2番打者」に新たな人材を起用しようとするチームが続出。まさに「2番戦争」の様相を呈しているのだ。


坂本の成功が呼び水に


 阪神は昨年の新人王で盗塁王の近本光司選手を今季から2番に打順変更することを決めている。ヤクルトは「トリプルスリー男」の山田哲人選手、中日は昨年、一時は首位打者争いに加わった高橋周平選手を、それぞれ2番打者としてこのオープン戦でテストしている。巨人は昨年から坂本勇人選手の定位置。変わらないのは広島の菊池涼介選手くらいだろうか。

 近年の野球界では「2番打者最強説」が語られて久しい。メジャーリーグではヤンキースのA・ジャッジやエンゼルスのM・トラウトらの強打者が数年前から“恐怖の2番”として認知されてきた。国内ではやはり昨年の巨人・坂本の成功によってライバル球団にも意識の変化が生まれてきた。

 坂本の2番起用を決めた原辰徳監督は「最強打者を2番に置くことで、得点の可能性は上がるし、相手チームにとってもより警戒が必要になる」と、その狙いを語っていたが、それを数字が実証する。

 前前年に18本塁打、67打点だったものが、昨年は40本塁打に94打点。2年前は故障で戦列離脱の時期もあったが、それでも2番打者が満点の数字でMVPまで獲得するのだから指揮官の狙いは見事にはまった。


新チームの今後を左右する2番!?


 この坂本に似た2番打者を期待されるのがヤクルトの山田だろう。昨年までは主に1番か3番を任されてきたが、チーム事情としてかつての本塁打王であるW・バレンティン選手のソフトバンク移籍が影響している。普通ならクリーンアップに長打力のある山田と村上宗隆選手あたりを置きたいが、そうすると1番か2番打者の弱体化は否めない。

 ならば1番が凡退した時には2番・山田が出塁して盗塁も望める。もちろん一発もある。ベテランの青木宣親選手を「つなぎの3番」として起用することを考える高津臣吾新監督の苦肉の策が吉と出るか、注目だ。

 8人の外国人選手を獲得して強化を図る阪神だが、攻撃の要は新たに2番に座る近本である。新人の昨年は長嶋茂雄の新人最多安打記録を抜き、36盗塁と暴れまわったが、打てども走れどもなにより後続が続かずにチーム総得点(538)は12球団ワーストだった。

 そこで今季は近本にチャンスを拡大する役目も期待するのが矢野燿大監督の狙いだが、肝心の近本に代わる1番打者を見つけられるのか――。現時点では糸原健斗、木浪聖也選手らをテスト中だが、結果が出ないようだと近本の1番打者Uターンもあり得る。


2匹目のドジョウは!?


 かつての2番打者と言えばバントで手堅く送れる小兵の定位置とされてきた。一戦必勝の高校野球の影響もあり「甲子園戦法」がバイブルであった時期もある。

 プロの世界でも金田正一、稲尾和久、杉浦正各氏ら絶対エースの時代には「1点取れば勝てる」からバント戦法も当たり前とされてきた。だが、攻撃力の上がった今、初回からバントで走者を送るケースは珍しい。したがって、2番打者には重要な役割が増えている。

 初回、無死一塁の場面。ベンチからの要求は多岐にわたる。【1】一塁走者の盗塁までは打つな。【2】一・二塁間を狙ってチャンスを拡大。【3】最低でもゴロを打って進塁させる。【4】走者を気にしてストレート系の多い投手なら狙い球を絞って一発を期待。【5】相手投手の制球が悪ければ四球を選ぶ、など戦局を左右する重大な役割を担うのが現代の2番打者だ。何よりも同様な場面に最強打者が登場することで相手投手に心理的負担をかけられることが大きい。

 さて、巨人・坂本にとって代わる“2匹目のドジョウ”はいるのか?「2番戦争」から目が離せない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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