白球つれづれ2020~第15回・山川のユニークな発想
チームの一時解散や自宅待機に自主練習。ようやく合同練習にこぎつけたチームでも時差出勤や選手間の間隔を空けて汗を流すなど、野球界も「コロナ対策」に四苦八苦している。
本来なら3月20日に予定されていた開幕が延期されて3週間以上が経つ。野球に限らず、世界の主要スポーツは一様に延期・中止に追い込まれているが、アスリートたちによるメッセージが拡散している。
「コロナに負けるな」といったメッセージ型から自宅でのトレーニング方法の公開など種類は様々だが、個人的には西武の主砲・山川穂高選手の発信が好きだ。
自宅待機中だった先月下旬には“バドミントン・トレ”と“書道トレ”を公開。バドミントンのシャトルを使った打撃練習では、風の抵抗で変化するシャトルの特性を生かし、楽天・則本昴大のスライダー、ソフトバンク・千賀滉大のフォークなどをイメージし、エースへの対応に活用するという。また、書道八段の腕前を生かして毛筆も執る。こちらは心を整える効果がある。
4月7日のメットライフドームでの自主練習では“捕手トレ”を発信した。昨季の首位打者でパのMVP男・森友哉選手と共に考えたもので、外崎修汰、川越誠司の両選手も参加。日頃から森が取り組むワンバウンド捕球や、両膝を地面につけた状態から立ち上がる動作を繰り返して前進していく動きなど、マスクやレガースにプロテクターまで付けた重装備での練習は想像以上に厳しい。
最後はヨタヨタと苦悶の表情を浮かべる映像に笑いがこみ上げてしまった。そうかと思えば9日には、2年目のエース候補・松本航投手を野手の練習に誘って、コミュニケーションを図りながら日頃とは違う練習法を伝授している。
一皮むけた山賊の主砲
山川と言えば、球界でも一二を争う練習の虫だ。公式戦中でも試合終了後から室内練習所に向かい、バットスイングを欠かさない。それほどストイックな主砲が静と動を使い分けて、時には笑いを誘うユニークなトレーニングまで考案する。言い換えればオンとオフの使い方がうまい。
長丁場のペナントレースで見た場合でも、考えての創意工夫は大事だが、考えすぎると逆に深みにはまることも多い。一流と言われる選手ほど、スイッチの切り替えがうまいものだ。山川の場合は幼少期から習字を習い、ピアノのレッスンも重ねてきた。都会の野球エリートが野球一筋なのに対して、あらゆるジャンルの稽古を重ねてきたことは無駄ではない。沖縄でのびのび育ち、寒冷地・東北の大学(富士大)で厳しさに耐える下地を作ってきたからこそ今の姿があるのだろう。
幻に終わった3.20の開幕。あの時点でペナントレースが始まっていれば、間違いなく昨年以上の成績を残すだろうと関係者の見方は一致していた。
オープン戦の成績は、打率.367(全体の3位/1位は.378)、3本塁打(同2位/1位は4本)に7打点(同9位/1位は11打点)。西武の試合消化数が大半のチームより3~5試合少なかったことを考えれば、かぎりなく三冠に近い数字とも言える。さらに本来なら開幕カードとなっていた20日からの対日本ハム3連戦(練習試合)でも7打数6安打、1本塁打、6打点と、そのバットは猛威を振るっている。
絶好調の秘密は打法改造だ。昨年までは打球を捕えに行く際、左足を高く上げていたが、今年からは「上げ幅」を低くして、なおかつ意識を中堅方向に弾き返すようにした。
「去年は50本を打つという思いが強すぎてオーバースイングになっていた」
昨年も2年連続本塁打王に輝き、打点部門も2位ながら、打率は2割5分台と安定感に欠け、大事な勝負どころでは4番の座を中村剛也選手に明け渡した。そんな反省から生まれた新打法の感触は上々、センター中心に打ち返しても山川のパワーなら本塁打数が減る心配はいらないだろう。
4番返り咲きと、その先に見つめる3冠王の頂。笑える自主トレ姿を公開した山川だが、一方で今季から森と共に社会貢献活動を行うことも球団から発表されている。山川の場合は本塁打1本につき1万円を積み立て、埼玉県と沖縄県の基金団体に寄付する。そのためにも一刻も早い開幕が待たれるところだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)