それぞれの決断
依然として出口の見えない新型コロナウイルスの感染下にあって、プロ野球各球団の選手たちは各自が工夫しながら練習に励んでいる。外国人選手たちも例外ではない。
日本人メジャーリーガーの中では、田中将大投手(ヤンキース)、筒香嘉智選手(レイズ)、山口俊投手(ブルージェイズ)が3月末に一時帰国して国内調整に励んでいる。一方で今季からレッズに移籍した秋山翔吾選手はアメリカ居残りを決断している。
「日本に帰国したとして2週間の自宅待機が必要となり、それからアメリカに戻っても2週間の観察期間が必要、それを考えると地元でいる方がベターと判断した」と苦渋の決断を語っている。
異国の地で迎えたコロナ禍
筒香や秋山らはメジャー1年目、現地では新外国人選手であるように、日本にやってきた助っ人たちもまた、異文化の地に降り立ち、言語に、野球スタイルの違いに戸惑いながら一からのスタートを切っている。通常のシーズンなら、さほどの混乱はないだろうが、コロナ禍で練習場所も満足に確保できず、自宅からの外出すらままならない現状は日本人選手以上にストレスがたまるに違いない。
西武の新外国人、C.スパンジェンバーグ選手は所沢の室内練習場などで同僚のE.メヒア選手と自主トレに励んでいる。球団職員である通訳との接触も避けるため二人きりの空間だが、来日7年目を迎える兄貴分のアドバイスに耳を傾けながら「来たるべき日」に備えている。今月12日にはジュリー夫人が都内の病院で第一子となる女児を出産、燃える材料は山ほどある。
先日、報道陣の求めに応じて現在の心境を語ったのは阪神の大物外国人、J.ボーア選手だ。
「来日1年目でいろいろなことを楽しみにしていたし、非常にワクワクしていたので残念だけど、今は世界中の人々が我慢をしないといけない。開幕が可能である限り、アメリカに帰ることは考えなかった」。メジャー通算92本塁打の大砲候補、長打力不足の阪神にあって「4番・一塁」を期待されているが、オープン戦では思うような成績が残せなかった。
ファンの間からも「大丈夫?」と心配の声が上がるが、この調整期間を有効に使いたい。現在は自分の過去のビデオ映像などを見返してチェックに余念がないと言う。同じく虎のセットアッパー候補として加わったJ.エドワーズ投手は、自宅待機中に聖書を読んで心の整理に励んでいる。神のご加護を祈るばかりだ。
ジャパニーズ・ドリームを
当初3月20日に予定されていた開幕は4月に延び、その後はメドすら立たず、5月下旬から6月中旬にかけて予定されていたセパ交流戦の中止が発表された。これが当初から仮に「7月開幕」と決まっていれば、外国人選手の中には一時帰国を検討した者もいたかもしれない。また、多くの助っ人たちの出身国であるアメリカは、日本以上に被害が甚大で帰るに帰れない事情も推察される。だが、多くの外国人は違う理由で日本残留を決めている。
「日本人は礼儀正しく統率が取れている。禁止されていなくても“自粛”という形で外出を控えたり、店を休業している。周りを考えられる」と語るのは、広島にやってきたT.スコット投手。サッカー界では世界的な名手であるA.イニエスタ選手(神戸)も「日本人は規律正しいので(コロナ禍も)心配していない」と、日本人の国民性に信頼を寄せる。
練習も満足に出来ず、開幕も見えない異常ずくめの船出。条件は一緒でも、新外国人にとってそのハードルは日本人選手以上に高い。1年契約の場合、通常シーズンの143試合より短縮確実なため、短期期間の中で結果を出さなければ、即契約解除が待ち受けている。アメリカでもメジャー球団さえ経営圧迫が報じられ、ファーム組織では大幅な整理、削減が決まっている。ここは「ジャパニーズ・ドリーム」にすべてを賭けるしかない。
外国人選手が日本で活躍するには、日本文化を理解して、日本野球を研究することが条件として上げられる。外出さえ出来ない現状で文化の理解は困難でも野球の研究にはたっぷり時間がある。ペナントレースの行方を助っ人たちが握っている図式は今年も間違いない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)