BCリーグを襲うコロナショック
まだまだ予断を許さない状況が続いているものの、コロナショックも徐々に落ち着きを見せはじめ、政府も段階的な緊急事態宣言の解除を視野に入れるようになってきた。日本のプロ野球も「感染の状況を慎重に見極めながら開催のための準備が整うことを条件に」6月後半の開幕を目指していくという。
その一方で、4月末には『ルートインBCリーグ』村山哲二代表の口から経営危機の言葉が出るなど、独立リーグの存続を危ぶむ声も出始めている。果たして、その実態はどうなのか――。BCリーグの「今」を追った。
選手が置かれている現状
現状を語ってくれたのは、群馬ダイヤモンドペガサスのベテラン・井野口祐介選手(35)だ。
群馬球団は3月1日に拠点としている高崎城南球場でキャンプイン。4月18日に予定されていた開幕に向けて調整を進めていた。
リーグ当局が開幕延期を発表したのは4月1日のこと。この前後から群馬球団でも練習前に検温が行われるなど、コロナ対策を本格的に行うようになった。4月第2週には、練習もグループ分けされ、少人数で実施。各選手には「行動管理表」が配布され、外食や大人数での行動を慎むよう指示が下りている。
そして4月17日に政府が緊急事態宣言を発出したことを受け、リーグも各球団の活動休止を宣言。BCリーグ各球団は練習を含むすべての活動を休止することになった。NPB球団のような本拠地球場を選手に開放しての「自主練習」も、そもそも球場の管理者である自治体が貸し出しを停止しているため、群馬をはじめ多くの球団でできない状況だ。
もうひとつの独立リーグ『四国アイランドリーグplus』では、愛媛球団が今シーズンの選手・スタッフの給与保証を行うことを発表して話題となったが、BCリーグの場合は、リーグ規定でキャンプ中に支給される最低月給と同額が休止期間中も支給されることになっている。独立リーグの選手報酬は上限が40万円なので、主力選手ほど実入りは少ない。
2~3カ月が限界
現在、井野口は基本的に自宅待機で、買い物などの回数も減らし、極力外出を控えている。オフの間は契約社員としてフルタイムで働きながら、週2~3回、1時間強のトレーニングをジムで行っていたが、緊急事態宣言後はジムも閉鎖され、現在は家で自重でのウエイトやメディシンボールを使ったトレーニングをするだけだ。
球団からはマネージャーを通して諸連絡があるほか、オンラインミーティングも一度あった。シーズンに向けて作った体がなまるのではないかと心配にもなるが、根っからの楽観主義者である井野口は「どうすることもできませんから」と割り切っている。
「ひと月かけて調整してきましたから、今のところは大丈夫です。その点は、むしろ若い選手の方が困っているんじゃないですかね。全体練習休止後は、バットも振ってないし、ボールも投げていません。2週間くらいあれば、元に戻せます。ただ、これが2~3カ月も続くと話は別ですけど」
家庭のある井野口のようなベテランにとっては、コンディションよりも生活の方が心配だという。群馬球団は、成績に応じたインセンティブによって給料が上がる仕組みのようだが、先述のとおりBCリーグ所属選手は規定の最低月給で生活しなければならない。群馬のアパートの家賃相場は、3万円から5万円ということなので、水道、ガス、携帯(通信費)といった最低限のインフラ費用を支払うと、残りは食費もままならない額になる。
まだ若い控えクラスの選手の場合、シーズンイン後の報酬も大きくは変わらないが、彼のような主力選手にとっては、インセンティブの機会である試合がないことが大きな痛手となってくる。井野口は、現在の給与とオフの間の仕事の貯えで当面は生活するという。BCリーグは、シーズン中の選手の副業は禁じているので、アルバイトもできない。
「リーグも大変らしいですが、選手個々の生活を考えると、2~3カ月が限界ではないでしょうか」と、井野口は言う。そして、2~3カ月が限界というのは、リーグ当局も同じ見解だ。
耳目を集めた“存続危機”発言
BCリーグの村山代表が「ああいうつもりで言ったんじゃないんですけどね。あとでみんなに叱られましたよ」と振り返ったのは、メディアで報じられた“存続危機発言”についてだ。
「ほとんどの球団がなくなる」という言葉だけが独り歩きした格好だが、村山の意図は「あくまで開幕延期がずっと続けば」という一般論であり、「それは一般の企業も同じ」だ。前述の報道を受け、某実業家が「国の方針は死んでくれっていうこと」とツイートするまでに発展した騒動に困惑の表情を浮かべつつ、村山は続ける。
「こっちも何もしないわけではないです。まずはウチの門を叩いてきた若い連中の夢を摘み取らないというのは大前提ですから。各球団も苦しいけど、彼らの生活もあるので、シーズン中は禁止しているアルバイトは容認しようかと考えている。試合の方も、何とかできないかと模索しているところです」
観客動員を年々伸ばしているNPBに対し、独立リーグの観客動員は下降気味だ。実際のところ1000人も入れば御の字という現状ではある。早い話が、独立リーグの試合会場は「三蜜」とは程遠い。
先日、台湾プロ野球が1000人を上限として興行試合に踏み切ったが、台湾の球場のキャパと日本の地方球場が大差ないことを考えると、ある程度状況が落ち着けばNPBに先駆けて実験的に試合興行に踏み切れるのではないかとも思う。
再開への道筋を
開幕に向けて動くべきという考え方は、村山も同様だ。
「ウチの場合、スポンサー収入が半分弱。無観客でも試合を行えば、これは入ってくる。まずは無観客であっても開幕し、段階的に観客を入れてもいいのではないかと話し合っています」
NPBに先駆けて開幕すれば、試合のネット配信などでリーグをアピールすることもできるし、スポンサーにもメリットとなる。一方で、メジャースポーツに先んじての開幕は、世間からの理解を得られないのではないかという問題も出てくる。
しかし、BCリーグ12球団が展開されている県の内、12日現在で「特定警戒都道府県」に指定されているのは石川、神奈川、埼玉、茨城の4県だけだ。このうち、茨城は新規感染者ゼロが続いている。指定されていない34県に対しては緊急事態宣言の解除も視野に入ってきている。
国外では台湾、韓国のプロ野球のほか、ドイツのサッカーリーグからも再開予定との知らせが耳に入ってくるようになってきた。BCリーグは現在のところ、開幕を6月中旬以降に延期することを発表している。
当然、新型コロナウイルスの封じ込めは大切だ。ただ、選手へのPCR検査や各種対策を前提に、陰性の出た選手から封じ込めに目途が立った地域で再キャンプを実施していくなど、徐々に開幕への道筋をつけていってもいいのではないだろうか。
今シーズンのBCリーグは、神奈川の新球団「神奈川フューチャードリームス」や、ユーチューバーの経営参画による福井球団の衣替えなど、見どころが満載だ。コロナ禍にあっても、独立リーグが「倒れる」ことはない。遅い春は、そこまで来ている。
文=阿佐智(あさ・さとし)