プロ野球は平穏な日常の象徴だ。
街の飲食店やスポーツジムの営業が徐々に再開され、ついにプロ野球も戻ってきた。それは野球ファンのいつもの日常が戻ってくるということでもある。
6月19日の開幕に向けて各チーム練習試合の真っ只中、リーグ連覇を狙う巨人は、現在通算1024勝の原監督の球団史上最多勝利記録、坂本勇人のセ・リーグ歴代最年少2000安打、大物新外国人選手パーラの加入、捕手3人制の行方など、今季も見所は多いが、それ以外にも2020年の巨人注目ポイントを挙げていこう。
5年ぶりのリーグ優勝を飾った2019年は、山口俊が15勝を挙げローテの柱となり最多勝に輝く大活躍をしたが、その山口は巨人初のポスティングシステムを利用してブルージェイズへ移籍。そうなると、やはり昨季は故障に苦しみながらも11勝を挙げたエース菅野智之の復調が待たれる。
早いもので、菅野もプロ8年目を迎える。13年から7シーズンで通算87勝。最多勝2度、最優秀防御率4度、最多奪三振2度、沢村賞2度、MVP1度で通算防御率は脅威の2.36だ(平成唯一の2年連続20勝を達成した“平成の大エース”斎藤雅樹ですら通算防御率は2.77)。まさに球団エース史上屈指の安定度を誇る背番号18だが、昨年10月で30歳になった。
近年はメジャー移籍も度々噂に上がるが、現時点で巨人投手陣には将来的にエースナンバーを継承できるような先発投手が見当たらないのも事実だ。もちろん、ドラフト会議での圧倒的なクジ運の悪さや、新人投手の度重なる故障も関係してくるが、巨人で18年、19年と二桁勝利を挙げた20代の投手は菅野以外にいない。
今季は例年より少ない120試合が予定されており、先発候補には16年から2年連続二桁勝利を記録し今季は先発復帰するサウスポー田口麗斗、昨季8勝の桜井俊貴、5勝の高橋優貴、ローテ入りの期待が懸かる20歳の戸郷翔征といった顔触れが揃うが、近未来の「ポスト菅野」に誰が名乗りを上げるのか? その第一歩として、まずは20代の二桁勝利投手の出現を待ちたい。
思えば、原監督の第一次政権時代は長嶋監督から引き継いだ上原浩治が健在で、第二次政権以降は堀内監督の秘蔵っ子・内海哲也が成長著しく、グライシンガーやゴンザレスという他球団の助っ人投手も積極的に獲得。そして超即戦力ルーキーの菅野の入団と各時代のエースに恵まれてきた。名将・原辰徳が、イチからどんな“令和のエース”を育て上げるのか注目だ。
ビッグベイビーから若大将へ。昨季は一塁を中心に三塁や外野も守った岡本和真だが(先発出場数は一塁69試合、三塁56試合、左翼17試合)、プロ6年目の今季は開幕から、長嶋茂雄や原辰徳の代名詞だった巨人伝統の「4番サード」として起用されることが濃厚だ。
18年33本塁打、19年31本塁打と生え抜きではあの松井秀喜以来の3年連続30本以上を狙うが、その松井の自身初のホームラン王獲得はプロ6年目の98年シーズンだった。
6月30日に24歳になる岡本が三塁で固定されたら、今後のチーム編成にも大きな影響を及ぼす。将来的に一塁には、昨季高卒ルーキーながらイースタン・リーグで首位打者に輝いた山下航汰(現在は右手有鈎骨鈎骨折でリハビリ中)を起用できるし、二塁にはチーム関係者からも「怪我さえなければモノが違う」と高く評価される吉川尚輝。そして遊撃には不動の坂本勇人と理想的な内野陣が形成される。
最近は31歳で腰に不安を抱える坂本の負担を考え、コンバート案もファンの間で囁かれるが、恐らくしばらくはこのまま遊撃手でプレーすることになるだろう。現在歴代4位の遊撃出場1646試合。あと122試合で遊撃手出場試合数のNPB最多記録を更新する。背番号6は紛れもなくチームの顔であり、生え抜きのフランチャイズプレーヤーだ。
あの勝利至上主義のシビアなメジャーリーグのヤンキースでさえ、晩年は守備の衰えを再三指摘されたデレク・ジーターを、最後まで遊撃からコンバートすることはできなかった。いわば、数字やロジックを超えた存在。それがスーパースターである。
近未来のチーム構想としては、いずれ主将の座もこの坂本から岡本へ引き継がれる可能性が高い。名実ともに次代のチームの顔へ。果たして、2020年は「4番サード岡本」時代の始まりのシーズンとして、人々の記憶に刻まれるだろうか。
昨季、勝負どころでブルペンの救世主となったのは37歳のひとりのベテラン投手だった。通算100勝を達成した大竹寛である。正直、シーズン前に前年度一軍でわずか2試合しか投げていない大竹に期待していたG党がどれだけいただろうか? もう終わった選手……そんな周囲の声を大竹は腕一本で称賛へと変え、なんと秋のプレミア12の日本代表にも最年長選手として追加招集された。
一方で森福允彦のように、結果を残せずユニフォームを脱いだ選手もいる。若手に未来を見て、ベテランに現実を見る。これがプロ野球の魅力でもある。移籍1年目の昨季は打率.148、契約更改では1億3000万円減の屈辱を味わった37歳・中島宏之は、春先から好調でオープン戦トップタイの4本塁打を放ち、練習試合でも一塁スタメン出場を続け好調を維持している。
同じように練習試合で一塁起用されているのが、本職は外野手の陽岱鋼だ。17年に日本ハムからFA移籍後は怪我にも泣かされ、昨季は自身と同じく広島からFA移籍してきた丸佳浩にセンターのポジションを奪われた。一方で19年に36回起用された代打ではリーグトップの打率.394(出塁率.444)と適応力を見せた。
恐らく、原監督は中島と陽のベテランコンビで「阿部慎之助の穴」を埋めようとしているのではないだろうか。晩年の阿部は一塁に加え、代打の切り札としても存在感を見せた。中島を一塁で使い、勝負どころの代打として陽をスタンバイさせる。引退した偉大な阿部の役割を、ふたりでワリカンするというわけだ。
投手陣ではもちろん、昨季一軍登板がなかったチーム最年長選手の岩隈久志や、3年契約最終年で左アキレス腱断裂からの復活を目指す野上亮磨も、夏場以降にでも復帰できれば連戦が続く過密日程において貴重な戦力となりえるだろう。
今年の球界は何が起こるか予測がつかない。いわばコロナとの共存を余儀なくされる異例のシーズンは、例年以上に各球団の「選手層の厚さ」が勝負を分けるペナントレースになるはずだ。
とは言っても、このご時世、シーズン途中の新外国人選手の獲得は難しい。ならば、くすぶっていたベテランの復活こそ、チームにとって最大の緊急補強になるだろう。2020年、チームの命運を握るのは、酸いも甘いも噛み分けた百戦錬磨の男たちなのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
街の飲食店やスポーツジムの営業が徐々に再開され、ついにプロ野球も戻ってきた。それは野球ファンのいつもの日常が戻ってくるということでもある。
6月19日の開幕に向けて各チーム練習試合の真っ只中、リーグ連覇を狙う巨人は、現在通算1024勝の原監督の球団史上最多勝利記録、坂本勇人のセ・リーグ歴代最年少2000安打、大物新外国人選手パーラの加入、捕手3人制の行方など、今季も見所は多いが、それ以外にも2020年の巨人注目ポイントを挙げていこう。
菅野を継承する次代のエース…20代の10勝投手は出現するか?
早いもので、菅野もプロ8年目を迎える。13年から7シーズンで通算87勝。最多勝2度、最優秀防御率4度、最多奪三振2度、沢村賞2度、MVP1度で通算防御率は脅威の2.36だ(平成唯一の2年連続20勝を達成した“平成の大エース”斎藤雅樹ですら通算防御率は2.77)。まさに球団エース史上屈指の安定度を誇る背番号18だが、昨年10月で30歳になった。
近年はメジャー移籍も度々噂に上がるが、現時点で巨人投手陣には将来的にエースナンバーを継承できるような先発投手が見当たらないのも事実だ。もちろん、ドラフト会議での圧倒的なクジ運の悪さや、新人投手の度重なる故障も関係してくるが、巨人で18年、19年と二桁勝利を挙げた20代の投手は菅野以外にいない。
今季は例年より少ない120試合が予定されており、先発候補には16年から2年連続二桁勝利を記録し今季は先発復帰するサウスポー田口麗斗、昨季8勝の桜井俊貴、5勝の高橋優貴、ローテ入りの期待が懸かる20歳の戸郷翔征といった顔触れが揃うが、近未来の「ポスト菅野」に誰が名乗りを上げるのか? その第一歩として、まずは20代の二桁勝利投手の出現を待ちたい。
思えば、原監督の第一次政権時代は長嶋監督から引き継いだ上原浩治が健在で、第二次政権以降は堀内監督の秘蔵っ子・内海哲也が成長著しく、グライシンガーやゴンザレスという他球団の助っ人投手も積極的に獲得。そして超即戦力ルーキーの菅野の入団と各時代のエースに恵まれてきた。名将・原辰徳が、イチからどんな“令和のエース”を育て上げるのか注目だ。
「4番サード岡本」は定着するのか?
ビッグベイビーから若大将へ。昨季は一塁を中心に三塁や外野も守った岡本和真だが(先発出場数は一塁69試合、三塁56試合、左翼17試合)、プロ6年目の今季は開幕から、長嶋茂雄や原辰徳の代名詞だった巨人伝統の「4番サード」として起用されることが濃厚だ。
18年33本塁打、19年31本塁打と生え抜きではあの松井秀喜以来の3年連続30本以上を狙うが、その松井の自身初のホームラン王獲得はプロ6年目の98年シーズンだった。
6月30日に24歳になる岡本が三塁で固定されたら、今後のチーム編成にも大きな影響を及ぼす。将来的に一塁には、昨季高卒ルーキーながらイースタン・リーグで首位打者に輝いた山下航汰(現在は右手有鈎骨鈎骨折でリハビリ中)を起用できるし、二塁にはチーム関係者からも「怪我さえなければモノが違う」と高く評価される吉川尚輝。そして遊撃には不動の坂本勇人と理想的な内野陣が形成される。
最近は31歳で腰に不安を抱える坂本の負担を考え、コンバート案もファンの間で囁かれるが、恐らくしばらくはこのまま遊撃手でプレーすることになるだろう。現在歴代4位の遊撃出場1646試合。あと122試合で遊撃手出場試合数のNPB最多記録を更新する。背番号6は紛れもなくチームの顔であり、生え抜きのフランチャイズプレーヤーだ。
あの勝利至上主義のシビアなメジャーリーグのヤンキースでさえ、晩年は守備の衰えを再三指摘されたデレク・ジーターを、最後まで遊撃からコンバートすることはできなかった。いわば、数字やロジックを超えた存在。それがスーパースターである。
近未来のチーム構想としては、いずれ主将の座もこの坂本から岡本へ引き継がれる可能性が高い。名実ともに次代のチームの顔へ。果たして、2020年は「4番サード岡本」時代の始まりのシーズンとして、人々の記憶に刻まれるだろうか。
岩隈、中島、陽、野上……崖っぷちのベテラン陣たちの逆襲は?
昨季、勝負どころでブルペンの救世主となったのは37歳のひとりのベテラン投手だった。通算100勝を達成した大竹寛である。正直、シーズン前に前年度一軍でわずか2試合しか投げていない大竹に期待していたG党がどれだけいただろうか? もう終わった選手……そんな周囲の声を大竹は腕一本で称賛へと変え、なんと秋のプレミア12の日本代表にも最年長選手として追加招集された。
一方で森福允彦のように、結果を残せずユニフォームを脱いだ選手もいる。若手に未来を見て、ベテランに現実を見る。これがプロ野球の魅力でもある。移籍1年目の昨季は打率.148、契約更改では1億3000万円減の屈辱を味わった37歳・中島宏之は、春先から好調でオープン戦トップタイの4本塁打を放ち、練習試合でも一塁スタメン出場を続け好調を維持している。
同じように練習試合で一塁起用されているのが、本職は外野手の陽岱鋼だ。17年に日本ハムからFA移籍後は怪我にも泣かされ、昨季は自身と同じく広島からFA移籍してきた丸佳浩にセンターのポジションを奪われた。一方で19年に36回起用された代打ではリーグトップの打率.394(出塁率.444)と適応力を見せた。
恐らく、原監督は中島と陽のベテランコンビで「阿部慎之助の穴」を埋めようとしているのではないだろうか。晩年の阿部は一塁に加え、代打の切り札としても存在感を見せた。中島を一塁で使い、勝負どころの代打として陽をスタンバイさせる。引退した偉大な阿部の役割を、ふたりでワリカンするというわけだ。
投手陣ではもちろん、昨季一軍登板がなかったチーム最年長選手の岩隈久志や、3年契約最終年で左アキレス腱断裂からの復活を目指す野上亮磨も、夏場以降にでも復帰できれば連戦が続く過密日程において貴重な戦力となりえるだろう。
今年の球界は何が起こるか予測がつかない。いわばコロナとの共存を余儀なくされる異例のシーズンは、例年以上に各球団の「選手層の厚さ」が勝負を分けるペナントレースになるはずだ。
とは言っても、このご時世、シーズン途中の新外国人選手の獲得は難しい。ならば、くすぶっていたベテランの復活こそ、チームにとって最大の緊急補強になるだろう。2020年、チームの命運を握るのは、酸いも甘いも噛み分けた百戦錬磨の男たちなのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)