白球つれづれ2020~第25回・開幕一軍の切符をつかんだ新人たち
待ちに待ったプロ野球が開幕した。
無観客のスタンドはもちろん寂しいし、違和感もある。マスク姿の首脳陣、無人の球場で飛び跳ねるマスコットも、チアガールも居場所を見つけるのが難しい。それでも開幕前の練習試合と風景は一緒だが、やはり緊張感が違う。さぁ真剣勝負の始まりだ。
6球場、延べ18試合の開幕3連戦を振り返ってみる。1点差ゲームは実に6試合に延長戦は3試合。戦前の「打高投低」の予想に反して多くの投手戦が見られた。調整段階の練習試合では中盤以降に若手のテスト登板があるため、一気に打線爆発もあったが、さすがにエース級が出揃う開幕カードでは連打、連打とはいかない。
そんな開幕カードで12人の新人選手(新外国人は除く)が初出場を果たした。大学出身が9人に、社会人出身が3人。さすがに高卒ルーキーの出番はなかった。
記念すべきプロの門出にも様々なドラマがある。最もまばゆい輝きを放ったのは広島のドラフト1位・森下暢仁投手だ。
3戦目の21日、対DeNA戦に先発すると、胸のすくピッチングを披露した。150キロ超えの快速球に、140キロ台のカットボール、130キロ台のチェンジアップ、さらには110キロ台の縦に大きく割れるカーブをコーナーに投げ分けていく。強打のDeNA打線を相手に7回、被安打4、奪三振は8個を数える無失点投球。これには敵将のA・ラミレス監督も「すごくいい投手。エースになり得るポテンシャルを持っている」と脱帽するほどだった。
これで逃げ切れれば森下に初勝利がつき、チームも3連勝と勢いに乗るところだったが、思惑通りにいかないのも勝負事。最終回に新守護神のT.スコット投手が4連打を浴びて一死も取れずにサヨナラ負けとなった。
ドラフト制後、デビュー戦で7回以上無失点の投手は過去に12人、その内訳は11勝無敗で、勝敗がつかなかったのは07年西武時代の岸孝之投手(現楽天)だけ。史上13人目の快記録を残しながら、報われない好投となってしまった。
とは言え、「新人王候補の最右翼」と評される即戦力右腕のポテンシャルの高さは疑いようがない。抑え陣の立て直し次第ではチームも森下と共に浮上してくるだろう。
プロとしての第一歩
史上初の「怪記録」に遭遇した? ルーキーもいる。ソフトバンクのドラフト3位・津森宥紀投手だ。突如の出番はロッテ戦の2回にやってきた。先発の二保旭投手が連打を浴びた直後、中村奨吾選手の頭部に死球を与えて一発退場。無死満塁、絶体絶命のピンチに新人が指名を受けた。
東北福祉大時代からサイドハンドの速球派として評判が高く、背番号もエース格の11番を背負うが、いくら何でもこの出番は過酷過ぎた。ロッテの大砲・井上晴哉選手を相手に度胸良く追い込んだが、最後は自慢のストレートをバックスクリーンに叩き込まれる。
思わぬ満塁弾の配給。プロ初登板で最初の打者に満塁本塁打を浴びたのは史上初の悲劇だが、この男、転んでもただでは起きない。その後は5回途中まで2安打に抑えたのだから、むしろ株を上げたルーキーと言っていいだろう。
森下のように先発ローテーションを掴んだ新人は稀で、開幕カードに出場した残り11選手の立場は投手なら中継ぎや敗戦処理からのスタート。野手でも代走や守備固めでの起用が目につく。その中では、ロッテの福田光輝選手(ドラフト5位/法政大)が3戦連続の出場、頭部死球を受けた正二塁手・中村のその後次第では、さらに出番が増えてくるだろう。
また、50メートル5秒9の俊足を生かし、楽天の小深田大翔選手(ドラフト1位/大阪ガス)も欠かせない戦力となっている。開幕2カード目には日本ハムのドラ1男、河野竜生投手(JFE西日本)が楽天戦に先発予定。こちらも先発陣が手薄なだけに救世主となれるか、注目だ。
ファームではヤクルトの奥川恭伸投手がイースタンリーグで大器の片鱗をのぞかせる。肩の張りで調整が遅れるロッテの佐々木朗希投手は一軍帯同で英才教育中。噂の高卒大物ルーキーたちも夏頃には出番が予想される。
ある意味では球史に残る今季のプロ野球。多くの新人にとって記憶にも記録にも残る活躍を願うばかりだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)