コラム 2020.07.03. 11:29

阪神・ボーアの「18」はまだマシ…?開幕からとんでもない“大不振”に陥った男たち

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“開幕からの無安打”にまつわるエピソード


 新型コロナウイルスの影響により、当初の予定より3カ月も遅れてスタートしたプロ野球の2020年シーズン。

 残念ながら完全な形ではなく、当面は「無観客」での開催となっているものの、7月10日には観客を動員した試合開催も解禁予定となっており、少しずつではあるが明るい兆しが見えつつある。





 あっという間に開幕から2週間が経過し、気が付けばシーズンも10分の1が終了。早くも各チームに勢いの差が見え始めている中、やはり主力のエンジンがかかってこないチームは、苦しい戦いを強いられている。

 そこで今回は、『プロ野球B級ニュース事件簿』シリーズの著者であり、ライターの久保田龍雄氏に、“開幕からの苦戦”にまつわるエピソードを振り返ってもらった。


“バースの再来”のはずが…


 今季で言えば、阪神の新外国人ジャスティン・ボーアの打撃不振が大きな話題を集めた。

 来日直後は「ランディ・バースの再来」と大きな期待を背負い、6月19日の開幕戦でも4番を任された左の大砲。ところが、巨人との開幕3連戦で12打数無安打とまったく打てず、3戦目からは打順も6番へ。

 6月23日のヤクルト戦も4打数無安打に終わり、開幕からの連続無安打は「15打席」まで。1983年にバースが作った球団ワースト記録を更新してしまった。


 翌24日のヤクルト戦で3打席目にセンターへの安打を放ち、待望の来日初安打をマーク。負の連鎖は「18」で止まったものの、チームの大苦戦も相まって、新助っ人が槍玉に挙げられることも多かった。これも人気球団の主砲の“宿命”と言えるだろう。

 「あのバースですら、最初は打てなかったのだから…」と擁護する声もあったが、バースはオープン戦の負傷で出遅れたうえに、一軍登録後の4月中旬から5月初めまでは代打での出番がほとんど。万全な状態ではなかったので、あまり気休めにならなかったのも事実である。

 とはいえ、過去にはボーアの記録も「全然大したことない」と思えるほど、長いトンネルにはまり込んだ打者が何人か存在した。


野手の日本記録は「41打席」快音なし


 野手では、1969年の西鉄・浜村健史と、昨年のヤクルト・廣岡大志が記録した「開幕から41打席連続無安打」というのがNPBのワースト記録だ。

 浜村は高知商時代に江本孟紀と同期の内野手で、1965年の第1回ドラフト会議では1位で指名を受けた逸材。プロ入り後は“守備の人”のイメージが強く、打撃は実働6年で1968年の打率.237がキャリアハイと伸び悩んだ。

 1969年は初出場の開幕2戦目・4月13日の近鉄戦で2打数無安打に終わると、6月8日のロッテ戦で4打数2安打を記録するまで「41打席連続無安打」。それでも、最終的には打率.213で4本塁打・20打点までは持ち直し、ショートのレギュラーの座を守っている。


 一方、昨年の廣岡は2年連続で開幕スタメンを勝ち取りながら、6月13日の楽天戦まで41打席連続無安打。なかなか快音が聞かれず、50年ぶりのワーストタイ記録となってしまった。

 しかし、翌14日の西武戦の8回に代打で登場すると、2ストライクと追い込まれながらも高橋光成の内角低めフォークに食らいつき、詰まりながらもレフト前に落とす待望のシーズン初安打。

 「新記録にならなくて良かった。1本出て気持ちも違ってくると思うので、これを続けていきたい」と、これで吹っ切れたのか、最終的に打率こそ.203ながら、自身初の2ケタ・10本塁打を達成した。どんなに三振の山を築いても村上宗隆を辛抱強く使いつづけ、和製大砲として開花させた小川淳司前監督の“育てる起用法”がここでも結実した形だ。


 ちなみに、「開幕」に絞らずシーズン途中からの記録で言うと、1993年にオリックスのケルベン・トーベが記録した「53打席」。シーズンまたぎも含めれば、2016~2018年のロッテ・岡田幸文の「59打席」がワースト記録となっている。


真のワースト記録は…?


この2人を上回る「開幕からの無安打記録」を持つのが、近鉄の投手・佐々木宏一郎だ。

 1966年4月10日の開幕2戦目、西鉄戦で池永正明から2打席連続三振を喫すると、4安打完封勝利を記録した10月4日の阪急戦で3打席目に梶本隆夫からシーズン初安打を放つまで、実に「63打席連続無安打」。これが開幕からのワースト記録となっている。

 佐々木は実働20年間で592打数38安打の生涯打率.064と、打つほうはさっぱりだったが、通算2本塁打を記録しているのも、野球の不思議さだ。


 この佐々木を、シーズンをまたいでの連続打席無安打記録で上回っているのが、東映の投手・嵯峨健四郎だ。

 1964年3月31日の南海戦で安打を記録したのを最後に、翌年8月19日の阪急戦の第1打席まで、NPB史上ワーストの90打数連続無安打。初めは「いつか(ヒットが)出るだろう」と軽く考えていたそうだが、なんと、1年4カ月以上もの長いトンネルに。なお、90打席の内訳は、三振42・内野ゴロ29・内野フライ8・外野フライ2・送りバント7・四球が2つだった。

 起用していた水原茂監督も、嵯峨の登板日になると、1試合に凡退する3~4打席を1イニング分として差し引き、「今日はウチの攻撃は8回しかない」と言い切るほど。対戦相手の投手も、「嵯峨に打たれたら恥」とムキになってシュートを投げてきたので、ますます打てなくなった。

 これでは「投手だから打たなくてもいい」とのんびり構えるわけにいかず、嵯峨は生まれて初めて真剣に打撃練習を始め、チームメートの張本勲に打ち方を教わるなど、涙ぐましいまでの努力を続ける。

 そして、5回一死の2打席目、足立光宏の初球を狙い打つと、これが188センチの長身二塁手ダリル・スペンサーの頭上を越える執念の安打に。打たれた足立は、まるでサヨナラ負けを喫した投手のようにマウンドの上で頭を抱えたという。

 ちなみに、嵯峨は連続無安打の記録がスタートしてから通算22勝15敗と、投げるほうでは好成績をキープしていたが、やっとの思いで不名誉な記録をストップした日は、8回を5安打・2失点に抑えながら1-2で敗戦投手に。安打1本で運を使い果たしたような、なんとも皮肉な結果となった。


 投手による打撃記録はもとより比較対象にはならないが、野手の記録と比べても、まだまだ上には上がある、ということ。

 ボーアには、これから真の主砲として覚醒してもらい、「そう言えば、18打席連続無安打なんてこともあったな…」と、風化してしまうような活躍を期待したい。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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