快挙を影で支えた男
たった一言で、道が開けることがある。金言から5年後、広島・三好匠内野手(27)は、「守備固め」で球団史の更新を手助けする。まずは、その職人芸を振り返っておきたい。
6月19日のDeNAとの開幕戦。1点優勢の8回から守備固めで三塁に就くと、ビッグプレーが生まれる。
一死三塁、代打・オースティンの強烈な打球が三遊間に飛んだ。一瞬の判断で反時計回りに回転しながらのスライディングを選択。好捕からの一連の流れで立ち上がると、本塁へのストライク送球で同点の走者の生還を阻止した。
大雨に濡れた人工芝、今季初の打球処理など不利な条件はそろっていた。「捕れば何とかなると思った」。冷静さに支えられた好守だった。
このプレーがなければ同点となり、直後の攻撃で投手・大瀬良に代打が送られていただろう。好守に救われて打席に向かった大瀬良は、自身初本塁打を放つサプライズまで起こし、完投勝利を挙げた。球団史上初の『開幕戦勝利投手と本塁打の同時達成』は、三好抜きでは生まれなかった。
そして、同26日の中日戦では、3点優勢の9回から守備固めで三塁に入った。
大瀬良の完投を目前にした二死満塁。平田の三遊間の打球をダイビング捕球で止める好守で逃げ切った。もし適時打なら、大瀬良が降板していた可能性もあった。
開幕戦からの2試合連続完投は2003年の黒田博樹以来で、完投勝利に限れば1984年の北別府学以来。三好が歴史の更新に再び貢献した。
転機となった、“師匠”との出会い
同僚の一人は、「内野守備なら三好が一番上手い」と断言する。この守備力が生まれた背景には、あるコーチとの出会いがあった。
話は楽天時代にさかのぼる。プロ4年目の2015年、酒井忠晴二軍内野守備走塁コーチが就任した。九州国際大付では3年春の選抜でエースとして準優勝し、プロ入り後に内野手に本格転向。入団から徹底して基礎練習を繰り返していた。
その姿を見た同コーチから、「もう少し遊びを入れたら?」と声をかけられた。この一言がターニングポイントになる。
「最初は基礎ばかりをやっていた。基礎だけでは、イレギュラーとか対応できない部分があった。そこでコーチが代わって、遊びを入れるようになってから変わることができた」
守備練習から引き出しが多い。ランニング捕球に逆シングル、数種類のグラブトス。基本的な形だけに縛られない。もちろん、“師匠”の助言が関係している。
「試合前練習でもカチッと型にはまらずに“遊べ”と言われた。どこで捕るかをあまり意識しすぎないようにと言ってもらった。捕ってから早く送球できるようにもなった」
遊び心は、後輩にも伝わっている。
ともに内野ノックを受け続けてきた高卒2年目の小園は、「先輩の守備を見るだけでも勉強になる。三好さんも(田中)広輔さん、キクさん(菊池涼介)も基本に忠実で、その中に遊びがある」と証言する。
2019年の途中に「守備を買われていると思う」と、鼻息荒く楽天からトレード移籍して2年目。見せ場でこそ力まず、肩の力は抜けている。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)