第2回:采配の妙
勝負事に誤算や予期せぬ出来事はつきもの。セ・リーグで首位を快走する原・巨人では、守護神のR.デラロサ投手が故障で戦列を離脱、パ・リーグでも3年連続日本一のソフトバンクが出遅れているが、大きな要因はコロナ禍でキューバからの来日が遅れているA.デスパイネ、Y.グラシアル両選手の不在が打線の迫力不足を招いているからだ。
こうした故障や、やむを得ぬ事情の場合、首脳陣は腹をくくるしかない。だが、今季は過密日程と投手陣のやりくりで混乱が起きている。代表的な例をいくつか挙げてみよう。
西武は7月4日のオリックス戦。先発の松本航が7回まで1失点の好投を見せて3対1でリード、本来なら勝ちパターンの継投策に出るところを、2番手に実績のない森脇亮介投手を起用して傷口を広げてしまう。
さらに1点差に迫られて打者・吉田正尚選手の場面で4連投の左腕・小川龍也投手にスイッチするが逆転2ランを被弾。翌日の同カードも敗れて負け越しを喫してしまう。この時点でブルペンには平良海馬、平井克典、R.ギャレットに守護神の増田達至と、必勝パターンの投手陣が控えていながら、連戦の疲労度を考慮して起用をためらったためだ。
ソフトバンクでは17年度の最優秀中継ぎ投手である岩嵜翔の起用法を巡って工藤公康監督の采配そのものに疑問符までつけられる。6月26、27日の西武戦で岩嵜は西武・木村文紀選手に逆転満塁本塁打、山川穂高選手に逆転3ランを喫してしまう。
指揮官からすれば長丁場の戦いを見越してキーマンの復活を目指したのだろうが、同一カードの6連戦は一度、相手に勢いを与えるとこうした惨劇を見ることとなる。
ペナントを左右する中継ぎ陣のやりくり
「今までのように3戦ごとに相手が変わるのと違って、同じ相手に6連戦だとリードでも難しい。同じパターンでは通用しない場合もあるし、とにかく疲れる」と西武の森友哉捕手は言う。
143試合から120試合に短縮された今季の日程。パは同一カード6連戦が組まれ、セも相手こそ変わるが、こちらも6連戦が続く過密日程が特徴だ。6日の広島戦から3戦連続で雨天中止となった阪神などは、すでに9月に入ってから41日間で38試合の消化がささやかれている。だからこそ、各チームの監督や投手コーチは特に中継ぎ陣の起用法に頭を痛めている。
先の西武の逆転負けの例を引くまでもなく、セでは阪神が開幕の巨人戦で先発・西勇輝投手が6回まで4被安打、1失点の好投を見せながら早めの継投が裏目に出て敗戦。DeNAも6月30日の巨人戦で濱口遥大投手を88球1失点なのに6回から継投策に出て白星を失っている。
開幕直後は先発投手に無理をさせないのがセオリー。広島の大瀬良大地投手のように2戦連続完投は珍しく、ほとんどが100球前後で降板となる。すると出番が増えるのは中継ぎ投手。8日現在、パでは全チームが17試合、セでは14~17試合を消化しているが、16試合を戦っているDeNAの中継ぎエース、S.パットン投手はすでに9試合に登板、2試合に1試合以上のペースでマウンドに上がっている計算だ。
他チームの中継ぎ陣も似たり寄ったり、通常のシーズンより移動日が少なく、連戦が続く。ましてこれから猛暑に突入すれば投手陣のやりくりがペナントの行方を大きく左右するだろう。
やりくり上手は誰に!?
それにしても解せないのは先発投手への過保護である。確かに近年は100球前後、6~7回を投げれば“お役御免”が定石。しかし、この方式を早くから取り入れているメジャーでは、その代わり先発投手は基本、中4日で回している。それが日本では中6日なのだから先発陣だけ恵まれていることにならないか――。
こうした過密日程に対して、今季は出場選手の登録人数を例年の29人から31人に、外国人選手の一軍登録枠も4人から5人に増やすなどの特例が認められている。変則的なシーズンだからこそ、選手起用にも首脳陣はいつも以上に頭を悩ませている。いずれにせよ、指揮官のやりくり上手が問われる1年となることは間違いなさそうだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)