ドラフトの“隠し玉”候補…?
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、残念ながら今年の全国高校野球選手権および代表校を決める地方大会は中止となってしまった。それでも、各地で代替大会は行われることになり、早い地域では既に開幕しているところもある。
プロアマ野球研究所(PABBlab)では、そんな代替大会での活躍が期待される、もしくは活躍が光った選手について、積極的に紹介していきたい。
今回は、茨城の公立高校から現れた将来性抜群の右腕を取り上げる。
強豪・浦和学院をシャットアウト
茨城県立佐和高校。県内北部のひたちなか市にある普通科の高校で、俳優として多くのドラマに出演している池内博之は同校の卒業生である。しかし、野球部についてはこれまで目立った結果が残っておらず、過去10年間の成績を見ても、「県大会の3回戦進出」というのが最高成績である。
ところが、そんな佐和に今年はプロから注目を集めている投手がいる。エースの黒田晃大だ。
1年秋から背番号1を背負い、昨年夏は初戦で敗れたものの最速140キロをマーク。秋の県大会でも、甲子園出場経験のある土浦湖北を相手に延長12回を4失点で投げ抜いている(試合は2-4で敗戦)。
その黒田を擁する佐和が、関東でも指折りの強豪校である浦和学院と練習試合を行うとのことで、実力を確かめに佐和高校のグラウンドを訪れた。
この日はお昼過ぎまで生憎の雨模様。練習試合が始まったのは、予定していた14時から約1時間30分遅れた15時30分頃だった。グラウンド状態も万全とは言えない難しいコンディションとあって、先発マウンドに上がった黒田は先頭打者にいきなり四球を与えてしまう。
それでも、続く打者のピッチャー前に転がったバントを素早く二塁に送って併殺を完成させると、3番打者もサードへのファールフライに打ち取り、初回の攻撃を三人で退けた。
続く2回・4回にも先頭打者にヒットを許したものの、最終的には5回を投げて被安打2の無失点。浦和学院打線をしっかり封じ込めてみせた。
長いリーチを生かした角度があるボールが魅力
181センチという十分な上背に加え、長いリーチを生かして高い位置から腕を振ることができるため、ボールの角度は申し分ない。
テイクバックで少し軸足の膝が折れて右肩が下がり、重心が上下動するのは気になったものの、リリースでしっかりボールを抑え込むことができている。この日のストレートの最速は140キロで、アベレージは130キロ台後半だったものの、その数字以上に勢いが感じられた。
さらに感心したのが変化球である。強豪校ではないチームに現れる本格派投手の場合、ストレートは良くても変化球が物足らないケースが多いのだが、黒田はそんな例には良い意味で当てはまらない。
まず、カーブでもスライダーでもしっかりと腕を振って投げることができる点が大きな長所で、特にスライダーは立ち上がりからしっかりコーナー、低めに集めることができていた。また、この日は2球しか投げなかったが、フォークもブレーキのある面白いボールである。
球種の割合も、ストレートよりも変化球の方が多いように感じた。変化球が多いと書くとかわしているように聞こえるかもしれないが、要所ではしっかり速いボールで押すことができており、そのような印象は全く受けなかった。
今後の活躍次第ではプロ入りの道も…
試合後、そのことについて本人に聞くと、相手が浦和学院ということもあって、いつもより変化球を多くしたという答えが返ってきた。また、立ち上がりはカーブが浮いていたため、スライダー中心の組み立てに切り替えたともコメントしている。
その日の相手や、自身の状況によってピッチングを変えられるというのは、センスの高さの表れと言えるだろう。体重も昨年夏の71キロから現在は77キロまで増え、制球力も安定したという。
走者を背負っても落ち着いて投げることができ、相手に連打を許すことはなく、また初回にバント処理で併殺を完成させたように、投げる以外のプレーもしっかりこなすことができていた。
まだまだ高いレベルでは課題は多いものの、ここまで総合力の高い投手が目立った実績のない公立高校から出現してくるというのが、日本の高校野球の裾野の広さである。
茨城県の代替大会は7月11日に開幕しており、佐和の初戦は同19日の小瀬戦と決まった。この日のような安定した投球を続けることができれば上位進出、そしてプロへの道も開かれる可能性は高いだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所