「150キロが出てから勘違いした」
150キロに首を傾げたかと思えば、149キロにうなずく。広島・一岡竜司投手(29)の直球論は、奥が深い。
今春のオープン戦で、原点に立ち返る一戦があった。
3月11日のDeNA戦。救援登板すると、代打・大和に150キロを計測した。ただし、19球中14球を占めた直球のうち、空振りは2球のみ。桑原には、4球連続の直球が全てボール球となって四球を与えるなど、制球も精彩を欠いた。
この日は、1イニングを被安打1、与四球1と走者を背負いながらも無失点。しかし、次回登板となった同14日のソフトバンク戦では、1回2失点と崩れる。球速表示とは裏腹に、状態は下降線をたどった。
大台到達が感覚を狂わせていた。
「ハマスタで150キロが出てから勘違いした。150キロを出しても質が悪かったな…と思う。142、3キロでも質の高い方がいい」
140キロ台中盤の直球で押し込むのが本来のスタイル。一岡の速球は、球速アップに比例して質が向上していくわけではない。
それから、コロナ禍による開幕延期期間に、二軍調整も挟んで迎えた今季初登板。7月15日の巨人戦で最速149キロを計測。1イニングを三者凡退に仕留めた。
「お客さんが入っていたのでアドレナリンが出た。二軍では出なかったようなスピードを出せた」
先頭の重信を直球で空振り三振。続くウィーラーは、直球で奪ったファウルでカウントを整え、フォークで2者連続の空振り三振とした。
150キロに納得がいかなかった横浜から一転、149キロの速球にうなずいたのは、直球のキレを打者の反応から感じ取ってのことだろう。
「自分は真っすぐで生きていく投手」
たとえ150キロ台を連発できなくとも、直球に生きる道を見出してきた。
59試合に登板した2018年の契約更改の場では、鈴木清明球団本部長から「直球で勝負できる投手になってくれ」と伝えられた。自他共に認める「速球派」である。
「打たれようと抑えようと、自分は真っすぐで生きていく投手だと思っている。直球で勝負できる年齢までは、そのままいきたい。直球の速さを追い求めるわけではない」
直球の現状には、満足しているだろうか…。取材規制が敷かれるいま、その出来は、結果から想像するしかない。
今季は、開幕延期期間に状態が上がり切らずに、開幕一軍を逃した。それでも、一軍昇格から4試合連続の無失点として、不安定だった菊池保則に代わる形で抑えに抜てきされた。7月23日の阪神戦では、自身663日ぶりのセーブも挙げている。
しかし、翌24日のDeNA戦で佐野に逆転サヨナラ満塁本塁打を献上。再びセットアッパーとして腕を振る。
「どんな立場でも投げたい」と、不振の救援陣を救うために一軍に戻ってきた。140キロ台中盤の直球で淡々と仕事をこなしていれば、それが本調子の合図である。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)