4年前の輝きを取り戻しつつあった中…
懸命に腕を振り、気持ちを切り替えているように見えた。
8月15日の広島戦。阪神タイガースの岩貞祐太は、9回のマウンドに立っていた。完投を目指していたわけではない。プロ入り初のリリーフ登板。“新天地”での再出発だった。
7年目の今季は開幕2戦目を託されるなど、貴重な左の先発要員としてローテーション入り。7月12日のDeNA戦では、8回無失点の快投で2勝目を挙げるなど、2ケタ・10勝をマークした2016年の輝きを取り戻しつつあった。
ところが、以降は3試合連続で5回以下での降板。そんな中、背水の思いで挑んだ8月10日のDeNA戦で、更なる試練が待ち受ける。
同点で迎えた4回。中継ぎとして登板した国吉佑樹に初球を叩かれ、右中間へ2点適時二塁打。この回限りでマウンドを降りた左腕に対し、矢野燿大監督からは「あの点の取られ方って、チームの士気が上がらんよな。打撃練習なんかほとんどしてない選手でしょ。それを初球、コンと打たれるんだから…。ちょっとチームに申し訳ないよね」と、厳しい言葉が。若手のカテゴリーでなく、チームの中心として、後輩をけん引していくべき存在の28歳に自覚を促した。
「任されたポジションで全力を尽くす」
このマウンドを機に、首脳陣は中継ぎへの配置転換を決断。これまで、ポストシーズンでのリリーフ起用はあるものの、レギュラーシーズンでは初めてだった。
心身ともに早急な対応が求められる中で、出番はいきなりやってくる。
ブルペン待機2日目となった15日、大量リードの状況ながら最終回に登板し、1回を1安打無失点。さらに翌日は、連投で同点の延長10回を3人で抑え、チームが敗戦する可能性を消した。
「任されたポジションで全力を尽くすことに専念できました。緊迫した場面でしたが、3人で抑えられて良かったです」
自身への怒り、悔しさ……。様々な感情は推進力に変えるしかない。リリーバーとして戦い抜く決意表明のような力投。これには指揮官も、「(延長戦で)気持ち悪い登板になったと思うけど、内容もしっかりしたピッチングをしてくれた。これからのチームにとって大きなプラス」と逆襲への思いを受け止めている。
“外見”にも変化があった。
今季は藤川球児の助言を受けて、開幕から右足を真下にゆっくりと下ろす先発用のフォームを駆使していたが、コントロールを重視してクイック気味に変更。実は3月上旬にも中継ぎ起用されており、その際に着手していたという、こちらも新フォームだ。
以前、ブルペンの一員としてチームに貢献することについて、「先発をやりたい気持ち以上に、チームが優勝すれば、それで良い。その時にどれだけ一軍で投げていられるかが大事だと思う」と口にしていた。
横浜でのKOから、そのまま二軍降格させなかったのは、ポジションはどうあれ、首脳陣が一軍の戦力として期待している裏返しでもある。
期せずして訪れた2度目の“開幕”──。どんな場所でも、一軍で身を粉にして最後まで戦い抜く。背番号17が腕を振る理由は不変だ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)