コラム 2020.09.18. 12:00

開幕前は逆風も首位独走! 原辰徳率いる“令和の巨人軍の強さ”とは?

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川上哲治元監督を抜いて球団歴代最多となる1067勝を挙げ、記念のボードを手にポーズをとる巨人・原監督=東京ドーム

巨人らしくない巨人?


 令和の巨人軍は変わった。

 15日の阪神戦スタメンを見て、そう思った。スーパーエース菅野智之の開幕11連勝で、優勝マジック38が点灯したこの試合、巨人の先発メンバーでFA入団選手は、5番中堅の丸佳浩ひとりだけだった。それどころか外国人選手もいない純国産打線である。

 キャプテン坂本勇人と不動の4番・岡本和真という高卒ドラフト1位から育てた主軸を中心に、38歳のベテラン亀井善行も健在で、育成出身の松原聖弥が2番を打ち、恐怖の下位打線を組んだのは20代中盤の捕手・大城卓三と二塁・吉川尚輝だ。少し前の(というか平成前半の長嶋監督時代から続く)大型補強のイメージが強いチーム事情からは考えられない、いわば“巨人らしくない”オーダーである。

 もはや2位に10ゲーム差近くつけ首位独走中の巨人だが、開幕前の評判は決して高くはなかった。昨季は原監督が復帰して5年ぶりのリーグ優勝を飾るが、日本シリーズではソフトバンク相手に屈辱の4連敗を喫して、頼れる阿部慎之助は40歳で現役引退を表明。オフには、エース級の働きで最多勝利、最多奪三振、勝率1位の投手三冠を獲得した山口俊がポスティングでメジャー移籍へ。FA戦線でも美馬学や鈴木大地らの争奪戦に敗れた。

 さらに大竹寛は野菜がよく取れる広東麺にハマり……という情報は置いといて、ドラフト会議では1位入札した奥川恭伸、宮川哲と立て続けに抽選で外し、外れ外れ1位指名の堀田賢慎は入団後間もなく右肘のトミー・ジョン手術を受ける想定外の事態にも見舞われた。


的確な補強と生え抜きの活躍


 前年からの戦力ダウンは必至。追い打ちをかけるように開幕目前の6月上旬には新型コロナウイルスのPCR検査で、坂本と大城の両選手に陽性反応が出たと発表。正常値ぎりぎりの微陽性だったが、主力を張る両選手のチーム再合流は開幕直前となり、いわば逆風の中での2020年シーズンのスタートである。

 しかし、蓋を開けてみると開幕4連勝と序盤から快調に走り、2位DeNAに0.5差で首位に立っていた6月25日には池田駿との交換トレードでゼラス・ウィーラーを獲得。原監督が長嶋監督超えの通算1035勝を達成した7月14日には、疲れが見え始めていたブルペン補強を狙い、またもや高田萌生と楽天のサウスポー高梨雄平の交換トレードを成立させる。ちなみにこの時点でも、まだ2位ヤクルトと0.5差の僅差だった。

 戦いながら足りない箇所をピンポイント編成で埋めていく。ウィーラーは時に3番を任され、故障離脱のパーラや二軍調整の陽岱鋼らの穴を埋め、高梨は移籍後15戦連続の無失点と驚異的な安定度でそれぞれフィットし、チームの起爆剤となった。同時に原監督は多くの若手を起用する。

 打率3割越えの待望の打てる捕手で先発マスク時は13連勝を記録した大城卓三(17年ドラフト3位)や、チームの長年の懸念材料でもある二塁レギュラーを掴みかけている吉川尚輝(16年1位)は9月月間打率.420、OPS1.013と絶好調。代走のスペシャリストとして盗塁王争いにも顔を出し、8月6日阪神戦での大量ビハインド時の投手登板も話題となった増田大輝(15年育成1位)らが躍動する。

 さらに投手陣でも岩隈久志はどこにいったんだろう……じゃなくて、高卒2年目の戸郷翔征(18年6位)が、自主トレをともにした師匠・山口俊の穴を埋める活躍ですでに7勝を挙げ、広島の森下暢仁と新人王争い。日によって勝ちパターンを使い分けるターンオーバー制のブルペンでは、中川皓太(15年7位)がチーム最多の30試合に投げ防御率0.93、同じく21歳左腕の大江竜聖(16年6位)もすでに24試合に登板している。


百戦錬磨のリアリスト


 規定打席到達者で3割打者は「0」、規定投球回も菅野ひとりだけ。それでも手堅く勝ちを拾う。原巨人は日替わりヒーローの出現で8月を14勝10敗1分け、13連戦で幕を開けた9月は8年ぶりの9連勝を含む12勝2敗1分けと、リーグ連覇に向けて独走体勢に入った。

 それにしても、巨人でこれほど多くのドラフト下位組や育成出身の生え抜き選手が、チームの中心で活躍するのはいつ以来だろうか? かと思えば一時は限界説も囁かれた37歳の大竹寛がチーム最多の16HP、得点圏打率.326の勝負強さを誇る38歳の中島宏之といったベテラン陣もしっかり再生した。

 終わりなき大型補強を繰り返していた平成の巨人とはまた違う、無駄を削ぎ落としたチーム編成による全員野球。いつ使われるか、いつ落とされるか、ベンチでぼんやり座っている時間はない。球団最多の通算1067勝を更新した百戦錬磨のリアリスト原監督率いる隙のない強さ。いわば“真っ当な強さ”である。

 日本球界のスター選手が当たり前のようにメジャーリーグを目指す現代、国内移籍市場は年々スケールダウンし、高橋由伸や阿部慎之助のような有望新人選手が、続々と巨人入りを目指した逆指名ドラフト制度も完全な過去となった。FA選手も一度は憧れのジャイアンツのユニフォームを着たいという時代ではないだろう。

 これまでのようなチーム強化手法はもう通用しない。だからファーム体制を風通しよく整備し、助っ人すらも育成選手から育てる。金の卵発掘のため、全国各地に散らばる21名もの球団出身の「OBスカウト」と契約したことも話題となった。


タツノリの破壊と再生


 現在、虫垂炎の元木大介ヘッドコーチに代わり、阿部慎之助二軍監督がヘッド代行を務めるが、その背番号80の阿部にしても、ほんの1年前まで背番号10を背負い「5番・一塁」で一軍の試合に出ていた。以前の由伸監督には丸投げするような形になってしまったが、その反省を元に今回はしっかり後継者を育成しようという意志が見える。今、猛スピードで巨人は変わっている。

 阿部だけじゃなく、内海哲也や長野久義ももういない。澤村拓一もトレードでロッテへ移籍した。いわば2010年代を戦った第二次原政権のチームは完全に終わった。いや、原監督が自らの手で終わらせた。タツノリの破壊と再生だ。

 激動の2020年シーズン。62歳の原辰徳は、時代に合った新しい「令和の巨人軍」を作ろうとしているのである。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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