プロ大注目の「最速156キロ右腕」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、高校野球だけではなく大学野球も大きな影響を受けている。
例年6月に行われている『全日本大学野球選手権』は中止となり、春のリーグ戦もほとんどの試合が行われなかった。
それでも、“運命の一日”は刻一刻と近づいて来ている。プロの舞台を目指す4年生にとっては秋のリーグ戦が最後のアピールの場になるが、プロアマ野球研究所(PABBlab)では、こんな情勢の中でも活躍が光った選手について積極的に紹介していきたい。
今回は、「最速156キロ」を誇るドラフト1位指名候補が、リーグ戦の最終盤で見せた圧巻の投球についてレポートする。
150キロ台のストレートを連発!
今年の大学生候補は地方リーグにも有望株が多いが、その中でもNo.1と言えるのが伊藤大海(苫小牧駒沢大)だ。
駒沢大を1年秋に退学して苫小牧駒沢大に入学し直し、規定により1年間は公式戦に出場できなかったが、その期間に大きく成長。2年春にはチームを大学選手権出場に導き、それ以降は大学日本代表のクローザーとしても活躍している。
そんな伊藤の最終シーズンでの状態を確認すべく、9月21日に行われた北海道学生リーグ最終節の試合を取材したのだが、ここでも伊藤は圧巻のピッチングを見せつけた。
この日最初に投じたストレートで152キロを叩き出すと、その後も7球続けて150キロ以上のスピードをマーク。2回と3回には連続で三者三振を奪うなど、優勝を争う函館大打線を相手に三振の山を築いて見せたのだ。
打線の援護がなく、延長10回に味方のエラーから1点を失って負け投手となったが、最終的に9回2/3を投げて被安打5、与四球は1つで19奪三振。自責点は0と、ドラフトの目玉に相応しい投球だった。
昨秋の日本代表候補合宿とは“別人”
昨年秋に行われた日本代表候補合宿の紅白戦では、投じた全30球のうち29球がストレート。打者6人から4三振を奪っているが、この日先発として登板した伊藤は、良い意味で“別人”のような投球を見せる。
63球投げたストレートのうち、150キロ以上が19球、147キロ以上が57球あり、平均球速は147.8キロ。プロの先発投手でも上位の数字をマークしているが、全体の球数に占めるストレートの割合は38.9%と、決して多いわけではない。
そんな中、素晴らしかったのが変化球の質とコントロールだ。
組み立ての中心となっていたのは140キロ前後で鋭く変化するカットボールだが、このボールを左打者の内角にほぼ完璧にコントロールすることができており、バッターが満足にスイングできないシーンが非常に目立った。
それ以外にも、カットボールより少し曲がりが大きい130キロ前後のスライダー。さらに110キロ台のカーブ、100キロを切るスローカーブ。
カーブ・スライダー系だけで4種類を操るだけでなく、逆方向に変化するボールも140キロ台のツーシームと120キロ台のチェンジアップを投げ分け、さらに真下に落ちるスプリットに近いフォークも低めに集めることができている。
球種が多ければ良いと言うものではないが、最速156キロのスピードを誇りながらこれだけの変化球を操る投手というと、プロでもなかなかいない。
10球団スカウト陣が大集結
また、制球力も抜群だ。
この日も四球はわずかに1だったが、これまでのリーグ戦でも平均四死球数は2個を下回っている。そういう意味では単なる本格派ではなく、「超絶技巧を兼ね備えた本格派」と表現するのが適切なのかもしれない。
試合後、伊藤は負けたことについて「悔しい」の一言。それでも、投球自体は大学でも一番の出来だったとコメントしてくれた。
ちなみに、この日のネット裏には10球団のスカウトが集結し、さらにGMが2人、スカウト部長は5人と、いわゆる編成トップも多く姿を見せていた。そんな注目度の中で最高のピッチングを見せられるというのも、見事の一言である。
なお、北海道には伊藤の苫小牧駒沢大が所属している北海道学生野球連盟と、札幌学生野球連盟の2つがあるが、過去のドラフトでは大累進(道都大→2012年巨人2位)、風張蓮(東農大北海道オホーツク→2014年ヤクルト2位)、川越誠司(北海学園大→2015年西武2位)の3人による「2位」指名が最高。ドラフト1位となれば、北海道の大学からは史上初となる。
この日の投球でその可能性は限りなく100%に近づいたことは間違いなく、複数球団による競合も十分に考えられるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所