苦しんだ2020年の出だし
昨季、セ・リーグの新人最多安打記録を61年ぶりに更新した阪神・近本光司の打撃が好調だ。
8月は月間打率.352をマーク。9月はここまで.298と3割を切っているものの、開幕直後のスランプを思えば、現在の.290という数字は奇跡的とも言えるだろう。
打率3割を目前にしている近本だが、開幕からの1カ月間は深刻な打撃不振に陥っていた。
開幕直後、6月の月間打率はなんと.128。7月中旬の時点でも打率はまだ1割台で、7月17日には約1年ぶりのスタメン落ちも味わっている。
それから数試合は途中出場が続いたが、7月26日の中日戦で1週間ぶりにスタメン起用されると、そこでいきなり4安打を放つ活躍。トンネル脱出の糸口を掴んだ。
足だけではありません
昨季はセ・リーグのルーキー新記録となる159安打を放っただけでなく、ルーキーとして史上2人目の盗塁王にも輝いた男。今季も打撃で苦しむ中、盗塁の数だけはしっかりと伸ばしてきた。
盗塁数19は現時点でリーグトップを快走中。2年連続の盗塁王も視界に入っている。しかし、それよりも目が行くのが、ここに来て急上昇している「本塁打」である。
9月に入り、突如開花させたパワフルな打撃。6月から8月までは月に1本のペースだった柵越えが、9月だけですでに5本。あと2本で昨季の9本塁打を超え、自身初の2ケタ本塁打に達する。
もし、近本がこのままの調子を維持していけば、「打率3割」「2ケタ本塁打」「30盗塁」という数字が現実的な目標となってくる。この3項目を同じシーズンに達成した阪神の選手はと言うと、過去にたった1人しかいない。
今から60年以上前の1957年、まだ「大阪タイガース」だった時代に田宮謙次郎氏が「打率.308」「12本塁打」「37盗塁」をマーク。これを110試合で記録しているというから、短縮シーズンを戦う近本にとっても決して不可能なラインではないだろう。
63年という長い時を経て、球団史上2人目の快挙達成なるか…。ジンクスを乗り越えて進化を見せる、2年目の近本光司から目が離せない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)