2013年鳥谷以来の生え抜き左打者2桁本塁打に王手
虎の切り込み隊長・近本光司(阪神)が、自身初の2桁本塁打まであと1本に迫っている。
世間的にはチームメートの大山悠輔(阪神)と岡本和真(巨人)の本塁打王争いが大きな注目を集めており、もし大山が本塁打王のタイトルを獲得すれば、阪神の選手として1986年のバース以来、日本人に限れば1984年の掛布雅之以来の本塁打王になると話題になっている。そこまでのものではないものの、近本が2桁本塁打をマークすれば、これもなかなかレアなものだ。
そもそも広いうえに、右翼側から左翼側へと吹く、いわゆる浜風がある本拠地・甲子園は、とくに左打者にとっては本塁打が出にくい球場だ。もちろん過去には30代後半で40本塁打の大台に乗せた金本知憲のようなとんでもない左打者もいたが、金本はFAで阪神に加入した選手だ。
もし近本が2桁本塁打をマークすれば、生え抜きの左打者に限れば10本塁打を記録した2013年の鳥谷敬(現ロッテ)以来のこととなる。それも、新型コロナウイルスの感染拡大により試合数が通常より少ないなかでの達成となると、より高く評価されるべき記録だろう。
不調のなかでも自身の打撃スタイルを貫き完全復調
今季の近本は低空飛行でのスタートとなった。開幕から1カ月あまりは打率1割台に低迷。それでも、バットを強く鋭く振り抜く、それこそ「小柄な金本」を思わせる打撃スタイルを変えることなく徐々に復調。気づけば打率は3割目前の「.292」にまで上げ、本塁打も9月に5本、10月もすでに1本をマークするなど増産傾向にある。
もちろん、守備では肩の弱さを指摘する声や、打撃では四球を多く選ばないために先頭打者としては出塁率が物足りないという声もある。だが、肩の弱さは俊足を生かした守備範囲の広さにより目をつぶれる程度のもの。そしてなにより、下手に四球を選ぼうとしたり、あてにいって内野安打を狙ったりするような打撃スタイルとは真逆の部分にこそ近本の強みがある。
たしかに、出塁率をもっと上げられれば、2年連続盗塁王が確実視される俊足の走者として相手投手にプレッシャーをかけられる場面は増えるだろう。ただ、それ以上に、試合開始直後の第1打席から「長打もある、投げ損じれば本塁打を食らう」と思わせられるほうが、相手投手からすればよほどプレッシャーを感じさせられる嫌な先頭打者という見方もあるはずだ。
まずは節目の2桁本塁打を達成して箔をつけ、今後もブレることなくバットを強く鋭く振り抜く打撃スタイルを貫き、球界きっての嫌な先頭打者として成長していってもらいたい。
※数字は10月4日終了時点
文=清家茂樹(せいけ・しげき)