ファームで一歩ずつ課題を克服
ここまで弱みをさらけ出せるプロ野球選手はいないだろう。広島・宇草孔基外野手(23)の愚直な姿勢には、誠実さがにじむ。
2019年ドラフト2位で入団した、強打と俊足を持ち合わせる大型外野手である。新人として迎える今季は、ウエスタン・リーグで62安打。これは、昇格前の10月6日まで同リーグトップだった。裏を返せば、二軍暮らしが長く続いたことを示している。
シーズン終盤まで昇格機会が訪れなかった要因の一つは、大学時代からの課題である送球難にあった。入団直後は至近距離のキャッチボールでさえ、毎回助走をつけるようにステップを踏まないと投げられない時期が続いた。
春季キャンプでの早出特守で繰り返したのは、近距離のネットスローなど基礎的な送球練習。当時を振り返り、「キャッチボールすらまともにできませんでしたから…」と隠さず認めるところが宇草の魅力である。
法大時代は、豊富な練習量で送球難の克服を目指した。打撃・守備練習と時間の許す限り動き続ける姿に後輩が驚いていると、「一番下手くそだから練習しないといけないだけだよ」と返した。チームの主力が後輩に「自分の方が下手クソ」と言い切るのは簡単ではない。
3月上旬に二軍に合流して以降は、赤松二軍外野守備走塁コーチから「攻めたミスはいいんだよ」と何度も伝えられた。思い切り腕を振れば、悪送球も責められなかった。
「だいぶ良くなったやん」。同コーチに背中を押されながら、一歩ずつ課題克服に向かっている。
お立ち台でも貫く謙虚な姿勢
逃げないと決めている。
大学4年秋の東京六大学リーグ戦は、打率.100と不振のまま終わった。実はこのとき、下半身のコンディション不良を抱
えていた。それでも、試合後には「力不足です」と話すなど、最後まで報道陣に故障を公表することはなかった。
「故障を隠したいわけではなくて、痛めているから打てなくていいという言い訳になるのが嫌でした」
言い訳しないのは、結果までの過程に妥協がないから。大学時代の知人が言った「ALL OK」が好きな言葉だと言う。
「いいときも悪いときも全部を受け入れると自分なりに解釈しました。後悔のないように準備ができていれば、何事も受け入れられる」
プロ初昇格をかなえた10月6日の阪神戦(マツダ)では、「1番・左翼」で初出場初先発。5回に左中間への二塁打を放つなど、1安打・1盗塁と活躍した。
さらに翌7日、同じく阪神戦では全4打席で出塁の大暴れ。本拠地のお立ち台にも立っている。
このときも謙虚だった。
ともにヒーローインタビューに上がった先発の遠藤に「(守備で)迷惑をかけてしまって悔しかった。ごめん」と謝り、「羽月は(昇格した)その日に(ヒーローインタビューに)上がっているので負けました」と苦笑い。
真っすぐな性格は、コイ党にも伝わったことだろう。
初出場から7試合連続で先発起用。10日のヤクルト戦で自身2度目のお立ち台に立ち、「(手応えは)ないです。本当になくて、毎日一生懸命できることをやるという気持ちでいっぱいです」と言った。
この正直さは、きっとこれからも変わらない。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)