白球つれづれ2020~第42回・ドラフトと田澤純一
プロ野球のドラフト会議が、いよいよ1週間後の26日に行われる。
コロナ禍でアマチュアの主要大会が中止になったり、部活動そのものが休止に追い込まれることも多く、スカウトたちにとっては苦労の絶えない1年となった。それでも高校生にはプロ志望者を対象とした「合同練習会」(トライアウト)が行われるなど関係者が努力した結果、今月12日に締め切られたプロ志望届には高校生216人、大学生158人が届け出。いずれも過去最多の人数となった。
ドラフト1位の注目は即戦力左腕として評価の高い早川隆久投手(早大)とソフトバンクの柳田二世として注目を集める佐藤輝明選手(近大)だ。すでに早川には地元・千葉出身ということもありロッテが1位指名を公言、DeNA、ヤクルト、広島や楽天も有力視されている。
一方、打者の大砲を獲得したいチームは佐藤の指名が予想される。こちらはオリックスが一番乗りで指名を表明したが、巨人、阪神、西武、日本ハムらの各球団が熱視線を送る。両選手ともに4~5球団の競合は確実で、今年もくじ運の強さがチーム補強に直結しそうだ。
高校生では大学志望から急転、プロ入りを決断した150キロ腕・高橋宏斗投手(中京大中京)が注目度No.1。地元の中日が一本釣りを狙うが、思惑通りとなるか? 他には素材の良さで中森俊介(明石商)、山下舜平大(福岡大大濠)両投手らの上位指名が確実視される。
社会人では栗林良吏投手(トヨタ自動車)の評価が抜けている。今後の各球団の戦略次第では1位指名までありそうだ。
「田澤ルール」を乗り越えて
そんな中で「34歳のルーキー」の進路も注目を集めている。今季からBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズに入団した田澤純一投手だ。
その球歴は今さら説明の必要もないくらいに輝かしい。2008年に日本のドラフトを拒否して米球界入り。レッドソックスで中継ぎとして頭角を現すと、13年には上原浩治らと共にワールドシリーズチャンピオンに貢献。その後、マーリンズ、エンゼルスなどでプレー。通算388試合に登板し、21勝(26敗)89ホールドの成績を残している。
昨年8月にレッズとマイナー契約を結んだが、今春自由契約となったことから12年ぶりの日本球界復帰を決断。田澤ほどの実績と知名度があれば、即NPB入りも可能と思われがちだが、そこには「高い壁」があった。いわゆる「田澤ルール」である。
2008年当時、田澤がドラフトを拒否して米球界入りを決断すると、国内では有望な若手の海外流失を危惧する声が高まり、「ドラフト指名を拒否して海外挑戦した選手は退団後も高卒は3年間、大卒・社会人は2年間NPB球団と契約できない」とする12球団の申し合わせ事項が決議された。これが「田澤ルール」として以来、効力を発揮してきた。
社会人の新日本石油ENEOS(現JX・ENEOS)からレッドソックスに入団した田澤の場合、NPB入りは2年後の2021年まで待たなければならなかったわけだ。
しかし、時代の変化に加え、スポーツ選手の移籍に関して昨年、公正取引委員会が独占禁止法違反の恐れがあると表明するなど問題が浮かび上がったことから今年9月にNPBも「田澤ルール」の撤廃を表明、これで今ドラフトに田沢指名の道が開かれた。
34歳のルーキー誕生は?
さて、メジャーの実績は十分だが、34歳の中継ぎ投手を各球団はどの程度、評価しているのか?
あるアマチュア関係者は「全盛期の球威はないが、今の野球は中継ぎの重要性が増している。3~4巡目あたりの指名があり得る」と予想する。埼玉武蔵のゲームには複数のプロ球団スカウトが視察、中でも田澤の地元であるDeNAが熱心という情報もある。メジャー流を好み、中継ぎ陣の手薄な日本ハムあたりも手を上げる可能性はある。
独立リーグ入りの時点では、「まずメジャー復帰の道を探り、NPB入りも視野に入れる」と語っていた田澤だが、ドラフト指名となれば入団は確定的だ。
自ら未知の世界に飛び込み、一方でNPBの掟にもてあそばれた男。第2、いや第3の白球人生がもう間もなく幕を開ける。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)