第5回:新たな「ロケットボーイズ」は生まれるか
ヤクルトの五十嵐亮太が、23年間の現役生活に別れを告げる。リリーフとして活躍し続けたプロ生活。メジャーリーグにも挑戦し、昨季10年ぶりに古巣への復帰を果たす前はソフトバンクでもプレーした。
代名詞の豪速球だけでなく、ナックルカーブ習得にも挑戦するほど、野球に対する情熱にあふれていた。16年オフにはメキシコのウインターリーグにも参戦して武者修行。現地では「先発」も経験している。
様々な環境に耐え、適応するために男は挑戦し続けた。10月25日、慣れ親しんだ神宮球場で引退試合を迎える右腕は、ヤクルトの後輩たちにチームの未来を託す。
リーグ最下位に低迷するヤクルトは、先発と共にリリーフ陣の改革が急務だ。ヤクルトが01年に日本一を達成した当時は、クローザーの高津臣吾(現監督)につなぐセットアッパーとして五十嵐、石井弘寿(現一軍投手コーチ)が活躍した。
今季から指揮を執る高津監督は「もっと整備できたんじゃないか、もっと高いレベルでの競争ができたんじゃないかなという風には思っています」と、『投手陣再建』についてはまだまだ課題が山積であることを口にしている。
「ロケットボーイズ」と呼ばれた五十嵐と石井のコンビ。この2人に匹敵するようなリリーフが、高津ヤクルトに誕生するか――。終盤の7回、8回を安心して任せられるリリーフ陣の構築は、優勝争いのできるチームへと成長するために必要不可欠だ。
2年目・清水昇がセットアッパーとして開花
今季、リリーフ陣の中に一筋の光が射し込んだのが、2年目・清水昇の成長だ。現在、27ホールドポイント(HP)を挙げている右腕は「最優秀中継ぎ投手」のタイトル獲得も視野に入っている。ルーキーイヤーから期待され、昨季は先発で3試合に登板したが白星を挙げることはできなかった。しかし、今季はリリーフとしてその才能を開花。マウンド上での気合いのこもった投球が、印象的だ。
高津監督は、清水の成長ぶりについてこんな言葉を残している。
「体調を崩さないでここまでこられているのが一番。(リリーフは)同じ精神状態で同じ体調でマウンドに上がるのが一つの大きな仕事だと思う。清水は打たれたら精神的にしんどいときもあったでしょうけど、体調面に関してはほぼ崩さずマウンドに上がれているので、そこは大きな成長だと思います」
来季以降も清水がリリーフの重要なポジションを任せられるか。ここまでチームトップの46試合に登板しているだけに、体調面のケアはもちろんだが、相手打者の対策に今後どう対応していけるかも重要なカギとなる。
リリーフは良くても悪くてもマウンドへ
清水だけではない。来季へ向けてヤクルトのリリーフ陣は残り試合を最後まで挑戦の場とする。
「リリーフピッチャーは良くても悪くてもマウンドに上がらなければいけない」とする高津監督。守護神を任せられている石山泰稚も、開幕当初は安定感に欠ける場面も見られた。それでも現在は17セーブを挙げ、クローザーとしてチームの命運を背負う投球が続いている。
国内FA権を取得し、今後の動向も注目されるが、ヤクルトにとって欠かせない存在であることは間違いない。
若手リリーフ陣にとっても来季につながるきっかけをつかみたい。ソフトバンクの育成から今季ヤクルトに移籍した長谷川宙輝はここまで40試合に登板。潜在能力の高さを感じさせる22歳の左腕は、150キロ超の速球を武器に今後は投球術も磨いていきたい。
今は試合で経験を積んでいる長谷川だが、貴重な中継ぎ左腕としてブルペンを支えてきた中澤雅人が今季限りでの現役引退を表明。リリーフを担える左腕が手薄になるだけに、来季はさらに大きな期待がかかる。
昨季68試合に登板して28ホールドを挙げた梅野雄吾も、まだ21歳。今季は力勝負で痛打される場面も見られるが、経験を重ねながら安定感のある投球を身につけていけば、守護神の座も狙える力はある。
五十嵐は引退会見で「抑え続けることが当たり前だと思われている。そんなところが中継ぎの魅力なんじゃないかと思います」と話した。この言葉を実感できるリリーフ投手が今後、一人でも多く神宮のマウンドに現れることを期待したい。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)