コラム 2020.11.27. 08:00

ラミちゃんの意外な転身【強者たちの秋】

無断転載禁止
最終戦を終え、ファンに手を振るDeNAのラミレス前監督=横浜

第4回:ラミレスの柔軟性


 プロ野球が全日程を終了した。注目の日本シリーズはソフトバンクが巨人を2年連続の4連勝で撃破、「盟主交代」を印象づける圧勝劇で幕を閉じた。

 すでに各球団の人事も動き出し、今オフでは3人の新監督が誕生している。楽天は三木肇前監督から石井一久氏がGM兼監督に就任。オリックスはシーズン途中に監督代行を務めた中嶋聡氏がそのまま監督にスライド。そしてDeNAは5年間指揮を執ったA.ラミレス監督が退任して三浦大輔新監督が誕生した。いずれもBクラスに終わったチーム、敗戦の責任を負うのも監督の宿命である。

 そのラミレス監督、最後の試合となったのは11月14日の巨人戦だった。本拠地の横浜スタジアムで最終回に神里和毅選手の中前打で劇的なサヨナラ勝ち。試合後には敵将の原辰徳監督から花束を贈られ、目を潤ませた。

 今季こそ4位に沈んだが昨年までの4年間では3、3、4、2位と優勝争いを出来るチームに引き上げ、特に17年にはクライマックスシリーズを勝ち上がり、日本シリーズ進出も果たしている。「データ8割、フィーリング2割」と自ら語る采配についてはファンの間からも疑問の声が上がった。だが一方でフロントの努力も含めて満員のスタンドを誇る人気球団に押し上げた功績は大きい。

 これほど日本球界で成功をおさめた外国人は少ない。

 2001年にヤクルトに入団すると圧倒的な打棒で主力の座に就く。加えて持ち前の明るい性格で「ゲッツ」「ラミちゃん、ぺっ!」と言ったパフォーマンスでも人気者に。以後、巨人、DeNAに移籍しながらMVP、本塁打王、首位打者など数々のタイトルを獲得。現役を引退する2013年には通算2000安打もマークして、外国人初の名球会入りも果たした。


日本に根付いた超優良助っ人


 外国人選手が日本で活躍するにはいくつかの必要条件がある。一番に求められるのは日本の野球や生活に適応する能力。さらに研究熱心であることだろう。

 かつて阪神で三冠王を獲得したR.バースらと同様に、選手・ラミレスもまた投手のクセや配球を読むのがうまかった。日本野球に馴染み、日本を愛したから指揮官まで上り詰め、昨年には日本国籍も取得した。

 そんなラミちゃんが監督退任と同時に意外な転身を遂げている。YouTubeチャンネルを開設して新たな発信を始めたのだ。スタート日が11月14日。つまり監督最終戦の日にユーチューバ―としてデビューしたことになる。変わり身の早さに外国人ならでは?の割り切りを見る思いもするが、今後は野球だけでなく、家族のこと、社会活動など幅広く情報発信をするという。

 すでにトレーニングジムを経営するなど実業家の顔も持つ。今後、知名度と明るいキャラクターでテレビなどでの露出も考えられるが、他方では近い将来の球界復帰を待望する向きもある。

 監督としては通算成績336勝337敗19分けの数字が示す通り、可もなく不可もなしの実績だが、打撃コーチとして評価する関係者は多い。

 本人も「監督生活の中でベストな決断だった」と語る佐野恵太選手の大抜擢。昨年限りでメジャーのレイズに移籍した筒香嘉智選手に代わって主将で4番の座を託すと、予想を上回る働きで首位打者に輝いた。同じく首位打者争いを最後まで争った梶谷隆幸選手の復活や宮崎敏郎選手の成長もラミレス流の指導が生きている。名前や実績にとらわれず、固定観念を打破して思い切った起用を出来るのは日本人指導者以上の強みである。

 打線の強化に躍起となるチームや外国人の指導とお目付け役にもうってつけ。ラミレスコーチ誕生の日は意外と早くやって来るかも知れない。

 最終戦で戦友を送り出した巨人・原監督は「ラミ、カムバック。また戻ってこい」と言葉をかけている。46歳。本人もこのままで終わる気はないだろう。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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