第9回:「投手陣再建」へ女房役の存在
投手力が課題のヤクルトで、女房役となる捕手の存在は大きなカギを握っている。2021年最初の『夢追うツバメたち』は、投手陣を引っ張る捕手陣に注目してみた。
昨季、チームの正捕手争いは、中村悠平と楽天から移籍してきた嶋基宏の一騎打ちと見られていた。
ところが、開幕戦でスタメン予定だった中村がぎっくり腰を発症する不運が起きる。8月20日に復帰を果たしたが、今度は9月9日の広島戦(マツダ)で本塁クロスプレーの際に負傷。下半身のコンディション不良で2度目の抹消を余儀なくされた。
嶋に関しては3月の練習試合で右手親指付近に死球を受けて骨折。6月の開幕には間に合ったが、7月11日の巨人戦(ほっと神戸)でファウルチップを右足に受け、右足舟状骨を骨折。2度の骨折という悲劇に見舞われる。
中村が29試合、嶋が20試合のみの出場に終わった中、一塁手としても起用された西田明央が最多の62試合でマスクを被り、昨季限りで現役引退を決めた井野卓が32試合に出場するなど奮闘。しかし、高津臣吾監督は「キャッチャー2人がなかなかメインで出られなかったというのは、すごく大きなこと」と話すほど、中村と嶋の相次ぐ故障はチーム成績に大きな影響を及ぼした。
ドラ3内山壮真は「古田が目標」
「扇の要」と呼ばれる捕手がシーズンを通して活躍できなければ、優勝争いに加わることは難しい。
ヤクルトの歴史を振り返ってみても、古田敦也という稀代のスター捕手がいたからこそ、90年代の黄金期を築き上げることができた。そして、その功績は、往年のファンの記憶に色濃く残っているのではないだろうか。卓越したリードとバッティング技術は、今なお語り継がれている。
それだけに、ツバメの正妻を務めるものには、大きな期待がかけられている。捕手へ向けられるファンの視線はときに厳しいものになることもある。
その古田氏を「自分の目標としている選手」と話したのが、ドラフト3位で入団した内山壮真だ。石川県の星稜高校からプロの扉を開いた18歳は、二塁への送球が1.8秒台と強肩を誇る捕手。172センチと小柄だが、高校通算34本塁打とそのパンチ力も魅力だ。
「キャッチャーとしての能力もすごく高くて、バッティングの方でもすごく活躍されている方なので、自分も打てるキャッチャーになりたいと思ってこれからやっていきたい」
内山は偉大な先輩である古田氏に尊敬の念を込め、意気込みを語った。古田氏の引退後、球界では「古田2世」と呼称される若手捕手はこれまでも多く生まれてきた。内山にもこの呼び名が定着するほどに活躍し、将来は唯一無二のキャッチャーに成長できるか注目だ。
今季の正捕手は競争に
かつての「古田2世」である中村も、今季でプロ13年目。31歳となるシーズンは全試合、捕手として出場することを目指し、6年ぶりのリーグ優勝と日本シリーズに出ることを目標としている。背番号も慣れ親しんだ「52」から「2」へと変更。気持ち新たに臨む。2年契約の2年目となる嶋は「最低でもAクラスに入るために力になりたい」と話し、勝負の年へ全力を注ぐ覚悟だ。
この2人に次ぐ捕手陣も負けてはいられない。昨季25試合に出場した22歳の古賀優大は「勝負をかけてレギュラーを奪いたい」と決意をにじませると、昨季わずか6試合の出場に終わり「不甲斐ない思いをした」という27歳の松本直樹は、今季はその悔しさをぶつける。11年目となる西田も「もう一度キャッチャーとして出られる準備をしていきたい」と、昨季以上の活躍を目指す。
今季の正捕手について、高津監督は「競争」を示唆している。投手陣の建て直しへ向け、捕手陣の白熱した争いにも注目したい。この戦いは、ヤクルトが再び黄金期をつくり上げるための礎となるはずだ。
文=別府勉(べっぷ・つとむ)