第3回:中日・福留孝介
この4月で44歳を迎える。福留孝介はもちろん球界最年長選手だ。
中日には実に14年ぶりの復帰。昨年まで在籍した阪神での年俸1億3000万円から大幅減の3000万円が瀬戸際の立場を物語っている。それでも12月に行われた入団発表では「感謝の一言」と、新たな門出に静かな闘志をみなぎらせた。
阪神での生活は二軍で終わった。昨年の一軍出場は43試合。打率は1割台と結果が出せず戦力外。日米通算で2407本の安打を放ち、2度の首位打者、チーム内でも将来の幹部候補生の声があった割には寂しい幕切れだった。力の衰えはあったが、コロナ禍でチーム内規に違反して会食に参加していたことが批判を呼び、退団の引き金になったと言う見方もある。
野球生活の晩年で打撃は絶不調、普通なら獲得球団があるのか心配になるところだが、意外に早く朗報はやってきた。古巣である中日からのオファー、福留にとって異存などあるはずがない。
福留のミッション
今から22年前、当時採用されていたドラフトでの逆指名を活用してドラゴンズに入団した。それより3年前、PL学園3年時のドラフトでは実に7球団が1位指名で競合。結果は意中のセ・リーグではなく、パ・リーグの近鉄だったため、社会人・日本生命で腕を磨く決断をしている。小さいころからの憧れがPLの先輩で、中日のスターである立浪和義氏だったのが決断の因だった。
その立浪氏同様に“ミスタードラゴンズ”と呼ばれた時代もあったが、今回の復帰は縁の下の力持ち的な役割を期待されてのもの。加藤宏幸球団代表は「期待するのは勝負所の代打」と具体的に働き場所を語った。そこには現在、中日の抱える大きな改善点がある。
昨年8年ぶりにAクラス入りを達成したが、さらに上を目指すには乗り越えなければならない壁がある。致命的な得点力不足だ。昨季のチーム得点429はリーグ最下位。投手陣は沢村賞男・大野雄大がいて、抑え陣には祖父江大輔、福敬登にR・マルティネス各投手らが揃い、勝ちパターンは整備されつつある。だが、大砲のいない打線はチャンスを作っても得点に結びつかない。
ちなみにチーム打率.252は優勝した巨人の同.255とわずかな差ながら巨人のチーム得点は532と、100点以上の違いが生まれている。ここ一番で有効打の打てない打撃陣の非力さと選手層の薄さが如実に表れた数字だ。
さらに外野の布陣も手薄と言える。レギュラー当確は大島洋平選手のみで、昨年まで左翼を任せていたZ・アルモンテ選手が退団、代わって新外国人選手としてM・ガーバーを獲得したが実力は未知数。近年、平田良介、福田永将選手といったレギュラークラスに故障が続き、戦力層や代打陣の手薄にもつながっている。その両方の穴を埋めるのが、福留に課せられたミッションである。
始まりの地で有終の美を
与田剛監督の下で迎える3年目。チームは若返りを図っている。根尾昴、石川昴弥、高橋宏斗と、この3年のドラフト1位選手はいずれも地元出身のスター候補。球団内では福留獲得に際して、こうした若返り策に逆行するのではという異論もあったようだ。しかし、プロの世界は必要とされる者が生き残る。勝負の年を迎える指揮官にとっても福留は打倒巨人に欠かせないピースなのだ。
「若い選手が野球を続けていくうえで、経験した事、プラスになる事があれば伝えていきたい」と超ベテランは語る。
福留が立浪に憧れたように、根尾は福留のスイングを理想形としている。このオフに本職の遊撃か、打撃を生かす意味で外野を守るかを悩んだ根尾は遊撃手として勝負を決断した。これを伝え聞いた福留は「自分がこだわって、納得して勝負したいのなら、それでいい」と後押ししている。
もちろん、福留本人はまだレギュラーの座を諦めてはいない。だが、代打であれ、途中出場であれ、若手の育成役であっても働き場所はある。
“死に場所”は決まった。野球人・福留の集大成を見せる時がまもなくやって来る。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)