どこよりも早い紅白戦で躍動
渾身のアウトローに、“もう1人のプロスペクト”も手が出ない…。
この1カ月の熱戦を予感させる1球。高卒2年目・西純矢が、満点と言える快投でアピールに成功した。
チーム初実戦となった4日の紅白戦。ハイライトは2回に訪れた。
一死から対峙したのは、ドラフト同期入団で和製大砲として期待される井上広大。投打の有望株同士のマッチアップは、2ボール・2ストライクから143キロの直球が外角低めに決まり、見逃し三振を奪った西に軍配が上がった。
「高さは良かったと思うが、コースがどうかと言われたら、今日は運が良かったなと。今日は運が良かっただけ」
意識するチームメートからつかみ取った価値あるアウトにも、19歳は最後までうなずくことはなかった。
ルーキーイヤーの経験を糧に
立場を考えればそうかもしれない。2回2安打無失点とこれ以上ない結果を残しても、生き残りをかけた競争が始まったに過ぎない。
開幕ローテーションというまだ見ぬ高い目標へ向けての第一歩。それでも、確かな成長を示したことは間違いない。
初回には、二死一塁から昨季28本塁打を放ったチームの主砲・大山悠輔を、クイックモーションから投じた5球目の145キロ直球で空を切らせた。
「一辺倒で投げていても(プロは)すごいレベルが高いので打たれたりしていた。どうやったら抑えられるかを考えていた結果が今日の間合いを変える投球だった」
ルーキーイヤーだった昨年は1年間、二軍のローテーションを担って経験を積んだ。150キロを超える直球は高校生相手では無双できても、プロでは簡単に打ち返される。
自身の武器にどんな付加価値を付けていくか…。そのひとつが、打者のタイミングをずらす“クイック投法”の駆使。1年目とは違う姿をマウンドで体現したのだ。
サバイバルは始まったばかり
快投の裏付けもあった。キャンプ初日には、投手陣最多の153球の熱投。序盤は頭が突っ込みすぎてシュート回転するボールが多かった中、福原忍投手コーチの助言で「6割の力で投げる」脱力投法を取り入れると、1球ごとの質が上がった。
「最低ライン100球と決めていて、その中でつかむものがあったので、気づけば150までいきました」
迷いながら153球に到達したのではなく、丁寧にフォームを体に染みこませた結果の投げ込み。しっかりと方向性が決まった状態で実戦へ向かい、アピールに成功したのは必然だったのかもしれない。
まだ戦いは始まったばかり。これから実戦マウンドに上がっていく藤浪晋太郎など、一軍でも実績ある面々を結果・内容で上回らなければ、ローテーション入りは見えてこない。
いわば“最後方”からのスタート。ただ、一気に捲る爆発力を備えていることも若さの強み。今後は疲れも溜まり、他球団との対外試合も控える。西にとっての正念場は何度もやってくるだろう。ただ、ひとつだけ言えることは、初めての一軍キャンプでこれ以上ない最高のスタートを切ったということ。取材する記者にとっても大きな「楽しみ」が増えた。
無観客と寂しいスタートとなった2021年のキャンプ。スタンドからの景色は大きく変わっても、マウンドからほとばしる「熱」はいつも以上に多いと感じる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)