上々のスタートを切った12年目右腕
「藤浪晋太郎vs.佐藤輝明」──。
2月7日に行われたチーム2度目の紅白戦。注目を集めたのは、復活を期す8年目右腕と怪物ルーキーによる“新旧ドラ1対決”だった。
試合前日、矢野燿大監督が2人を別チームに組み入れたことを明かし、その機運が一気に高まる。4回に1度だけ実現した対戦は、オール直球勝負でルーキーを迎えた藤浪が155キロで空振り三振。近年は不振に苦しんでいるとはいえ、一軍で2ケタ勝利を3度記録している右腕が圧倒した。
それが佐藤にとっては2打席目。初回に迎えた第1打席では、別の投手に抑えられている。白組の先発を務めた秋山拓巳は、藤浪同様にプロの力を見せつけた。
1ボール・1ストライクから投じた3球目、カーブでタイミングを外して二ゴロ。幸先よくチームの新星からアウトを奪うと、そのまま2回を打者6人に封じる完全投球を披露した。
今春初実戦で上々のスタートを切った12年目右腕は、貫禄すら感じさせる快投にも、「ブルペンでやってる形は出せたし、昨年より狙ったところに投げられそうというのもあったし、腕も振れていた」と表情を変えることなく、落ち着き払って、現状を捉えた。
テーマに掲げた「球速アップ」
昨年、1イニングにかける平均投球数の「イニングピッチ」と、0点台を叩き出した「与四球率」でともにリーグトップを記録。2回無四球、わずか15球の投球はまさに自身の強みを体現するパフォーマンスだった。
本人が振り返ったように、唯一無二の武器である「制球力」にもさらに磨きがかかった文句なしの内容。それでも、登板後のコメントはこれだけはなかった。
「数字として思っているものも出なかったので」
「数字」とは、球速のことだ。今オフ、テーマに掲げたのはシンプルに「球速アップ」。チームトップタイの11勝を挙げた昨年だが、直球は140キロ前半に止まり、130キロ台を計測することも珍しくなかった。
球速以上に打者が球威を感じる“遅い直球”は、年末のテレビ番組でも話題になった持ち味。ただ、高卒で4勝した翌年、初めて10勝した次の年も結果を残せず悔しい思いをしてきた男が、現状維持を良しとするはずはない。
「スピードが上がれば、2ケタというのも可能性は上がるかなと思ってます。腕を振れば、147~148出るようになればと」
キャリア初の2年連続2ケタ勝利に向けて、欠かせぬ進化を「球速」に設定し、トレーニングに取り組んできた。
1月には毎年合同自主トレを行っている西武・増田達至の胸の使い方に着想を得て、フォームを微修正。可動域を広げるべく、キャンプでも継続して早出練習で重点的に鍛えている。
「(スピードが)出ないのは持ち味でもありますけど。スピード特化というか、そこにとらわれないようにとは思ってます」
スピードにこだわるあまり、自分を見失う失敗は容易に想像がつく。そんなことも、4月で30歳を迎える右腕は分かっている。
数字に出ない確かな手応えと、数字で表したい進化の狭間。多くの視線を集めたドラ1対決をよそに、秋山の挑戦が静かに始まった。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)