170センチの3人がローテの軸に
3月1日、その知らせは突然舞い込んできた。ヤクルト・廣岡大志と巨人・田口麗斗のトレード成立。同じ東京を本拠地に置く、同じリーグ内のライバル球団による電撃移籍は大きな話題を呼んだ。
キレ味抜群のスライダーを武器に、貴重な左腕として先発・中継ぎにフル回転した巨人時代の田口。まだ25歳ながら2年連続で2ケタ勝利を挙げた実績もあるだけに、近年「防御率リーグワースト」の常連となっているヤクルト投手陣の救世主として期待がかかっている。
また、田口の加入によって、ヤクルトに珍しい現象が起こる可能性も出てきた。高津臣吾監督は田口を先発で起用していく方針を明かしており、開幕投手を務める小川泰弘、大ベテランの石川雅規に田口が続くとなると、球界でも屈指の「低身長3本柱」が完成するのだ。
ヤクルトの公式サイトによれば、石川の身長は「167センチ」。小川と田口はともに「171センチ」と表記されている。日本人の成人男性としてはごく一般的な身長であるが、言うまでもなくプロとしてはかなり身長が低い部類に入る。
もちろん、この3人以外にもロッテ・美馬学(169センチ)や中日の谷元圭介(167センチ)、野手でもソフトバンクの正捕手である甲斐拓也(170センチ)やDeNAの柴田竜拓(167センチ)など、小柄ながら一軍の舞台で活躍を見せている選手もいるが、彼らは少数派だ。
それこそ投手となれば、少年野球の時代からチームでも高身長のメンバーが任されることも多く、プロに進む選手も必然的に高身長の選手が多くなる。プロ野球選手の高身長ランキングを見ても、上位の多くは投手が占めているうえ、最近ではメジャーで活躍するダルビッシュ有(196センチ)や大谷翔平(193センチ)、さらには阪神の藤浪晋太郎(197センチ)など、190センチを超えるような大型投手も珍しくなくなってきた。
石川-小川-田口による3連勝を見てみたい
そんな世界に飛び込み、かつ一軍の一線で活躍し続ける身長170センチ前後の投手が同一チームにそろい、先発ローテーションを担う…。おそらくは、長いプロ野球の歴史を振り返ってみても稀なことであるはずだ。
「身体の大きさや身体能力だけではない」ということは簡単だ。だが、野球の世界においては、身体の大きさやそもそもの身体能力は大きな武器となるのが現実であり、先の言葉は綺麗事ともいえる。
身体が小さい選手には、身体が大きい選手とのあいだにある差を埋めるような高い技術、あるいは「絶対に負けない!」というような強い気持ちといったものも求められるだろう。それら必要な資質を、石川・小川・田口の3人は持っているということだ。
ヤクルトのローテーションがどのように組まれるのかはまだわからないが、先発の駒不足に泣いてきたチームゆえ、田口に先発ローテーションの一角を任せることは確実だ。
そうなると、石川と小川、そして田口の3人が同一カードで先発を果たし、スイープをするようなシーンも見てみたくなる。ましてや、田口の古巣であり、リーグの最強チームである巨人相手に実現するようなことがあれば、体格に恵まれない野球少年たちに夢や勇気を与えることにもなるだろう。
2021年、ヤクルトの新たな柱となるか…。石川・小川・田口という“小さな先発陣”に注目したい。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)