コラム

単なる「1/143」ではなく、未来もかけた一戦に…阪神・矢野監督が藤浪晋太郎に託した意味

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阪神の2021年・開幕投手を務める藤浪晋太郎 (C) Kyodo News

本人にとっても“想定外”の知らせ


 みんなどこかで期待していたと思う。サプライズでありながら、待望でもあった“一報”。阪神タイガースの藤浪晋太郎が、開幕投手を務めることが決まった。


 「今でも驚いていて…。驚いてるというのが自分の中であって。どういう気持ちで…というのがあまり考え切れていないというか、落ち着いてない気持ちがあります」

 感情を表に出さない冷静沈着な取材対応で知られる男も、9年目で初の大役がこのタイミングで巡ってくるとは想定していなかった。苦闘を続け、過去2年間でわずか1勝しか挙げていない投手の抜てきは異例だ。


 次代のエースとして期待をかけてきたファンが「ついにこの時が…」と胸を高鳴らせる一方、移籍後2年間、フル回転を続けてきた西勇輝がふさわしいという意見はもちろんある。その大黒柱がキャンプを離脱し、調整の遅れが心配されたのなら、代役には青柳晃洋や秋山拓巳がいる、という声も少なくなかった。

 どれも正論だろう。実際、キャンプを打ち上げた3月1日。西がぜん息の検査で帰阪した状況となって、開幕投手の候補に自身の名前が急浮上していることについて、背番号19はハッキリと首を振っていた。

 「ここ数年、勝てていない投手が開幕投手うんぬんと言うのも秋山さん、青柳さんにも失礼なので」

 これは偽らざる本音だったはずだ。


頂点を獲るための「プラスアルファ」に


 ただ、矢野燿大監督は「開幕・藤浪」を決断した理由に、実績や数字以外の“無形”の要素を挙げる。

 「エースは西。勇輝が投手陣を引っ張っていくというところに変わりはないけど、日本一になるためにはプラスアルファっていうのが絶対に必要。やっぱり、日本人選手が中心になっていく、土台として強くなっていくためには、晋太郎とかが出てくるというのが大事。そこ(開幕戦)を行くことであいつの成長と、チームの日本一、また強いタイガースを作るという意味も含めて、開幕投手というのを指名した」

 将来のチーム作りを考えての人選でもあり、藤浪は近年の苦闘を乗り越えての再起という「物語」も背負っている。


 手にした1勝が自身だけでなく、周囲にもたらす影響は確かに大きい。何より、ファンがその光景を望んでいる。

 藤浪のいる…いや、藤浪が作る猛虎の未来──。シーズンの1試合目という意味合いだけでなく、この先の数年を見据えた「キーマン」に指名した、と言ったほうが正しいのかもしれない。指揮官は「143分の1」にそれ以上の意味を込め、「それをどう取るかは晋太郎自身」と結んだ。


 開幕投手に決まって初めての実戦となった12日の西武戦では、5回を投げて3安打・3失点。初回、大阪桐蔭の後輩で3年ぶりの対戦となった森友哉に左翼越えの適時二塁打を浴びるなどつまずいたものの、2回以降は無安打に封じた。

 本番までに残された登板機会はあと1回…。19日のオリックス戦で、最終調整に臨むことが濃厚だ。

 「いまだ戸惑いだったりはあるんですけど、正直なところ。でも、決まった以上やるしかないですし。結果で示したいし、頑張りたい」

 近年の不振から逆襲を期す1年は、幕開けから大一番となる。新時代の号砲を打ち鳴らす藤浪晋太郎の“第1球”が待たれる。


文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)
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