ドラフトの目玉がこれ以上ない投球
3月9日から12日まで行われた社会人野球の『東京スポニチ大会』。春のセンバツの前、アマチュア野球の主要カテゴリーではシーズン最初の公式戦ということもあって、連日多くのスカウト陣がネット裏に詰めかけた。
今回はこの4日間で特に目についた今年のドラフト候補たちをレポートしていきたい。なお、選手の年齢はすべて2021年の満年齢となっている。
今大会でスカウト陣から最も大きな注目を集めたのが、三菱自動車倉敷オーシャンズの広畑敦也(24歳/玉野光南→帝京大)だ。
昨年の都市対抗野球では、開幕戦で前年優勝のJFE東日本を相手に1安打の完投勝利。ストレートの最速は154キロをマークするなど、センセーショナルな活躍で新人賞にあたる「若獅子賞」を受賞した。
今大会は4試合にリリーフとして登板。予選リーグ2戦目の東京ガス戦では1点を失ったものの、他の3試合は無失点に抑え、チームの優勝に大きく貢献。MVPにも選出されている。
特に見応えがあったのが、準決勝のHonda戦だ。広畑がマウンドに上がったのは1点リードの8回、一死一・三塁の場面。内野ゴロや外野フライでも同点になる確率が高い大ピンチだったが、社会人で屈指の好打者である井上彰吾と佐藤竜彦から連続三振を奪う、これ以上ない投球を見せた。
大会を通じての最速は、初戦にマークした153キロ。春先ということもあってか、都市対抗に比べると少しストレートのばらつきはあったものの、カットボールは140キロ前後のスピードで打者の手元で鋭く変化しており、カウント球や勝負球として使うことができていた。それに加えて、「ここぞ」という場面でコントロールミスがない制球力が光っている。
先発・リリーフどちらでも力を発揮できるというのも大きな魅力であり、このまま順調にいけば1位指名の12人に入ってくる可能性は高いだろう。
プロ注目の米倉貫太と鈴木大貴が好投
今年で高卒3年目となるHonda・米倉貫太(21歳/埼玉栄)もアピールに成功。予選リーグ2戦目のTDK戦で社会人初先発を果たすと、5回を1失点にまとめて勝利投手となった。
ストレートの最速は145キロと、昨年の都市対抗でマークした151キロには大きく及ばず、アベレージでは140キロ台前半とスピードは少し物足りなかった。しかしながら、大型ながらバランスの良いフォームで肘を柔らかく使える腕の振りはいつ見ても素晴らしいものがある。
ストレートがもうひとつ走らない中、130キロ台で鋭く落ちるフォークと落差のあるカーブを上手く使って試合を作ることができた点は大きな成長だ。今年で21歳とまだ若さがあるだけに、コンスタントに体のスケールに見合うだけのスピードをマークできるようになれば、一気にスカウト陣の評価は上がってくるだろう。
その米倉と投げ合い、5回2/3を投げて4失点(自責点3)で負け投手となったTDK・鈴木大貴(24歳/福島東→流通経済大)も、最速149キロをマークするなど、持ち味は十分に発揮した。
振りかぶった時に大きく体を反らせ、テイクバックで体をひねり、その反動で投げる変則的なフォームが特徴的。馬力は申し分なく、独特のボールの角度があるのは魅力である。
走者を背負った場面では反動を使えず、明らかに球威が落ちるのは課題だが、この大会が今シーズン初の対外試合だったことを考えると、ここから状態は上がってくることが期待できる。
ドラフト“指名漏れ選手”も躍動
同じTDKでは、佐藤開陸(21歳/能代松陽)と、昨年指名漏れとなった小木田敦也(23歳/角館)もまた、それぞれ持ち味を発揮。鈴木とともに今後もスカウト陣の注目を集めることは間違いなさそうだ。
小木田と同様に昨年指名を見送られた投手の中では、三菱自動車岡崎・坂巻拳(24歳/千葉英和→東京情報大)が予選リーグのTDK戦で負け投手となったものの、7回を4安打・1失点と見事な投球を見せている。187センチの大型サウスポーで、さらに高い位置から縦に腕を振り下ろすことができるため、ボールの角度は素晴らしいものがある。
また、右打者だけでなく、左打者の内角に腕を振って速いボールを投げることができるのも魅力。加えて、縦のスライダーとツーシームは打者の手元で鋭く変化し、空振りを奪えるボールとなっている。今大会での最速は144キロだったが、調整が進めば、さらに速くなる可能性は高い。貴重なサウスポーとして今後も注目を集めることになるだろう。
その他の投手では、少ないイニングでの登板ながら最速150キロとさすがのスピードを見せたHonda鈴鹿・八木玲於(23歳/敦賀→天理大)や、今大会はもうひとつの出来だったものの、バランスの良さとスピードを備えた東芝・吉村貢司郎(24歳/日大豊山→国学院大)、明治安田生命・小玉和樹(24歳/佼成学園→国学院大)なども面白い存在だ。
野手の有力候補は…
一方の野手は、投手と比べると有力候補が少ない印象だった。とはいえ、貴重な右の強打者タイプで存在感を示したのが日本製鉄鹿島・生田目忍(24歳/水戸工→星槎道都大/三塁手兼一塁手)とJFE東日本・平山快(25歳/東海大相模→東海大/三塁手)だ。
生田目は、予選リーグの3試合で12打数8安打・2本塁打の大活躍。上背はないものの、全身を使ったフルスイングは迫力十分。長打力も申し分ない。三塁守備はかなり不安定で課題は多いが、今年は外野にも取り組んでいるだけに、打つ以外のプレーもレベルアップを目指したい。
平山は、予選リーグ2戦目のHonda鈴鹿戦で2打席連続の本塁打を含む4安打の大活躍を見せた。下半身の強さと粘りは抜群で、軽く振っているようでも飛距離が出るのが持ち味。昨年は指名が見送られたが、三塁の守備も安定しているだけに、今年のドラフトでリストアップする球団は出てくるだろう。
その他では、抜群のスピードとミート力を見せた東芝・田中達朗(24歳/日大三→日本大/二塁手)、高校卒3年目ながらパンチ力とスピードが光るHonda・高山遼太郎(21歳/健大高崎/三塁手)、華麗な守備とミート力の高さが光る明治安田生命・高瀬雄大(25歳/長崎西→明治大/遊撃手)。昨年から野手に転向して今大会は4番打者として一発も放った三菱自動車岡崎・星野裕帆(23歳/川越東/外野手)などが目立った。
まだ、シーズンは始まったばかり。今後さらに調子を上げて素晴らしいプレーを見せてくれることを期待したい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所