コラム 2021.04.05. 20:00

まるで漫画のように【白球つれづれ】

無断転載禁止
西武・渡部健人選手

白球つれづれ2021~第14回・「リアル二刀流」から「よくばり一世」まで


 メジャーリーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が大暴れした。

 日本時間5日に行われたホワイトソックス戦に「2番・投手」で出場。「リアル二刀流」の出来に全米も注目した。

 投げては最速162キロの快速球に、打ってはいきなり右中間に137メートルの特大2号アーチ。これには現地で解説した元ヤンキースの主砲、アレックス・ロドリゲス氏も「田中(将大)と松井(秀喜)を足したようなもの。それ以上になるかも」と規格外のスケールの大きさに賞賛を惜しまない。

 まるで漫画の世界とあきれていたら、幕切れはそれ以上の衝撃度だった。

 3対0で迎えた5回。3年、1050日ぶりの勝利投手目前で制球を乱して失点、さらに二死二、三塁のピンチで空振り三振に仕留めたと思ったら、捕手が後逸。振り逃げに悪送球まで加わって同点とされる。しかも、本塁ベースカバーに入った大谷が走者・アブレイユに足をすくわれ転倒後に降板。こんな結末は漫画家でも思いつかない。


劇的ビフォーアフター


 日本でも、奇想天外のドラマが福岡の「ソフトバンク−西武」戦であった。

 敵地でソフトバンクに3連戦3連勝、17年ぶりの快挙でお立ち台に呼ばれたのはルーキーの渡部健人選手だ。1点リードの6回に和田毅投手のスローカーブを捉えた打球は左翼スタンド中段で弾んだ。

 プロ初安打がホームランも見事だが、わずか24時間前には二軍で汗を流していた男が急遽一軍に招集され、先発出場で結果を出したのだから、こちらも漫画のような話である。

 昨年のドラフト1位。桐蔭横浜大時代から長距離砲として定評はあったが、西武入団時の話題はもっぱらその体形だった。今でこそ体重112キロと発表されているが、入寮時は117キロ。中村剛也、山川穂高両選手よりさらに上を行くヘビー級、「おかわり三世」の呼び声に「よくばり一世を目指します」と夢を語っている。


巡ってきた出番と限られた時間


 キャンプでは右肩痛の影響もあって二軍スタート。同期の若林楽人(ドラフト4位)やブランドン(同6位)選手らが開幕一軍を手にしたのとは対照的に、ファームでじっくり育成の計画が練られていた。しかし、チームの事情が変わった。

 開幕直後の日本ハム戦で山川が左足を痛め、栗山巧選手も下肢の張りで戦列離脱、さらに3日のソフトバンク戦で外崎修汰選手が高橋礼投手の投球を足に受けて左腓骨骨折の重傷を負う。

 「うちの4、5、6番打者がいなくなってしまった」と辻発彦監督もうめく非常事態にあって、選択肢は限られていた。若手の未知数な魅力と打線の長打力不足を補うには“未完の大器”である渡部の可能性に賭けるしかなかったのだ。

 「ホームランか三振かくらいの気持ちで思い切り振ってこい」。前夜、渡部から一軍昇格の報告を受けた大学時代の恩師である斉藤博久監督はこうアドバイスを送ったという。その言葉通りに4打数3三振でも残りの1打席でチームの5連勝に大貢献の2ラン。天性のスラッガーには底知れぬ魅力がある。

 渡部にとっても西武への入団はメリットが大きい。まず、目の前に中村や山川という同タイプの生きた教科書がいる。加えて、レオ打線に根付くフルスイングの哲学だ。太っているからダメ、大振りしていてはダメという概念がこの球団にはない。特に新人は長所を伸ばすため1年目から細かい指導はしない。


 一夜にしてシンデレラボーイとなったが、これでレギュラーや一軍定着となったわけではない。外国人野手のコーリー・スパンジェンバークやエルネスト・メヒア選手が今月中旬以降にはチームに合流する。山川や栗山も戻ってくればDH要員である渡部のチャンスは限られてくる。それだけに、ここから10日から20日あまりの期間が首脳陣に更なるアピールをする重要な場となってくる。

 5日現在、パリーグの首位を走る西武だが、故障者続出の台所は火の車。しかし、そんなピンチを呉念庭選手や渡部らの若手が救っている。不思議な進撃。漫画家なら次はどんなストーリーを用意するのだろうか?


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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